なぜ中国人はイラッとさせるのか 「スジ」と「量」の価値観で読み解く

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なぜ中国人はイラッとさせるのか 「スジ」と「量」の価値観で読み解く

[レビュアー] 板谷敏彦(作家)

 一時よりは収まったものの、街の本屋ではまだまだ嫌中本が幅を利かせている。その一方で、中国製品や農産物は日本市場に浸透し、中国人観光客は着実に増加して日本にお金を落とし、高級マンションでも隣人に中国人が増えている。

 人間は相互理解が深まらないと、どうしても相手を「人間としてできが悪い」とみてしまう。ならば好き嫌いにかかわらず、どうせつきあいが深くなるのであれば、ここは中国をよりよく理解しようよというのがこの本の趣旨である。

 しかしなぜ中国人はあなたを「イラッ」とさせるのか、著者はその答えを「スジ」の日本、「量」の中国という切り口の中に見いだした。

 日本では菓子パンひとつ万引きしても「スジ」論で窃盗罪だが、中国では質的に違法だと理解しつつも「量」的に犯罪にはならないという。覚醒剤所持で有罪となった酒井法子は、日本ではその前科により執行猶予期間を終えた今でも不寛容な扱いを受けているが、中国ではその犯罪性も含めて量的に許されているからこそ活躍ができるのだと。

 小銭を借りて返さないのも、ちゃんと調べずに話を盛るのも、仕事ができなくても自己評価が異様に高いのも、日本人から見れば「スジ」が通らないが、「量」を目安に生きる彼らからは自然なことなのである。

 本書はこうした事例に溢れているが、話は同じ切り口を使いながら中国の統治制度、スマホの普及がいかに「量」の社会にマッチしていたのか、社会が成熟した後でも、「量」で考える社会は持続可能なのかにまで及ぶ。

 本年1月に成田で起きたLCC欠航に中国人乗客が暴れて中国国歌を唄った事件も、この説明であれば見事に腑に落ちる。

 中国人のどこがおかしいのか?と問うことは、翻って我々日本人自身の特異性を探ることにもなる。楽しく読めるこの本は、中国人からみた日本人論でもあるのだ。

新潮社 週刊新潮
2018年11月22日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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