最もコストがかかるのは地球を離れる手段だった

レビュー

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宇宙はどこまで行けるか

『宇宙はどこまで行けるか』

著者
小泉宏之 [著]
出版社
中央公論新社
ジャンル
工学工業/工学・工学総記
ISBN
9784121025074
発売日
2018/09/20
価格
1,080円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

最もコストがかかるのは地球を離れる手段だった

[レビュアー] 小飼弾

 以前『宇宙に命はあるのか』(小野雅裕)を紹介した時にも嘆いたのだが、宇宙は遠い。ニール・アームストロングが月に小さな一歩を印してから半世紀。心理的にはむしろ後ろに一歩下がった感すら否めない。人類の偉大な一歩を誇っていた国は、人類どころか隣国との間に壁を築こうとしている。しかし心理的な距離はさておき、物理的な距離はどうか? 大気圏外まで地上からわずか100キロ。地上であれば自転車で一日かからない。

 なのになぜジャンボジェットより重いロケットを使い捨てにしなければならないのか?『宇宙はどこまで行けるか』(小泉宏之)がその疑問に答えてくれる。宇宙には蹴るべき大地も羽ばたくべき大気もないからだ。ない以上自腹を切るしかない。本書にも登場するツィオルコフスキーの公式が示すのは、どれだけ身を削ればどこまで行けるか。本邦が誇るH-IIBロケットは、打ち上げ能力16・5トンのために531トンを費やす。

 しかし一旦地球を離れればあとは案外楽になることも本書は教えてくれる。太陽光で電力が賄えれば運動エネルギーは持参不要。アポロ時代より最も進歩したのはまさにこの点で、推進剤(そう、燃料ではなく!)は1/10で済む。はやぶさが戻ってこられたのもそのおかげ。推進剤不要のソーラーセイルもIKAROSで実現し、ロケットすら不要の宇宙エレベーターさえ見えてきた。最も世知辛い宇宙ですら、世知辛さゆえの進歩はあるのだ。

新潮社 週刊新潮
2018年11月22日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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