『日銀日記』 岩田規久男著

レビュー

4
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

日銀日記

『日銀日記』

著者
岩田 規久男 [著]
出版社
筑摩書房
ジャンル
社会科学/経済・財政・統計
ISBN
9784480864598
発売日
2018/10/26
価格
2,700円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『日銀日記』 岩田規久男著

[レビュアー] 坂井豊貴(経済学者・慶応大教授)

時代映す第一級の証言

 本書は、この春まで日銀の副総裁を務めた岩田規久男氏が、副総裁時代の日記を一冊にまとめたものだ。もともと岩田氏は日銀に批判的な論者で、かねてから大規模な金融緩和を唱えていた。そのような同氏に、日銀副総裁に就任するという「信じられないようなこと」が起きた。そして大規模どころか異次元の金融緩和を進めることになったのである。

 この金融緩和は他に類を見ないもので、壮大な社会実験の感さえある。これに挑むための学問的根拠を支えたのが岩田氏だ。だから同氏が当時何を考えていたのか公表することには、大変な意義がある。それは今後、国や時代を超え、同様の金融政策を検討する際の、重大な参考資料となるだろうからである。たとえば同氏は、日銀が国債を大量に購入することを、政府の財政赤字を助けるためではないという。あくまでそれは人々のインフレ期待に強く働きかける手段なのだという。結果として財政赤字を助けることになろうとも、同氏の考えとしては、それは副次的な影響なのだ。

 本書は直截(ちょくせつ)に書かれており、読み物としても抜群に面白い。岩田氏は副総裁時代、さまざまな論者から批判や難癖を受けた。それに対し実名をあげ、批判を返したり、論評したりしている。国会に参考人として呼ばれたとき、不遜な態度で攻撃してきた相手には「質疑は無駄」だと手厳しい。そのような相手は単にアベノミクスを貶(おとし)め、安倍政権を攻撃したいだけだからだ。たしかにそうした質疑は不毛なものだ。ただし日銀副総裁への攻撃が政権への攻撃になるとは、「日銀の独立性」が成り立つ状況では起こらないことだろう。

 すなわち本書は第一級の、政策と時代の証言である。岩田氏が日記をつけることにしたのは、副総裁に任命されたとき、長い付き合いのある編集者がそう勧めたからだという。筑摩書房は実に重要な仕事をしたというほかない。

 ◇いわた・きくお=1942年生まれ。学習院大名誉教授。専門は金融論。『日本経済を学ぶ』など著書多数。

 筑摩書房 2500円

読売新聞
2018年11月18日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

  • このエントリーをはてなブックマークに追加