『東西ベルリン動物園大戦争』 ヤン・モーンハウプト著

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東西ベルリン動物園大戦争

『東西ベルリン動物園大戦争』

著者
ヤン・モーンハウプト [著]/黒鳥英俊 [監修]/赤坂桃子 [訳]
出版社
CCCメディアハウス
ジャンル
文学/外国文学、その他
ISBN
9784484181080
発売日
2018/09/01
価格
2,808円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『東西ベルリン動物園大戦争』 ヤン・モーンハウプト著

[レビュアー] 塚谷裕一(植物学者・東京大教授)

体制の威信珍獣で競う

 今日ドイツを訪れる日本人は、ベルリンの壁があった時代のことを知らない世代も多いだろう。そのため東西ベルリンの分断についても、東西ドイツの、その境界面に二つのベルリンがあったと誤解している人も少なくない。最近もネット上で、そうした誤解を正す書き込みが、多くの反響を呼んでいたほどである。

 ましてやその東西ベルリンの分断の時代、両ベルリンに大きな動物園がそれぞれあったこと、そしてお互いをライバル視し、競争を繰り広げていたことは、まず知られていないだろう。本書はその珍妙な時代を舞台に、それぞれの園長たちの群像を描く。平和な時代であっても、動物園の園長になれるかどうかは、動物飼育の知識・技能だけでは決まらない。まして東西ベルリンという特異な立場をいわば象徴する職種ともなれば、政治的な思惑が多くを支配する。著者は、そのきわめて人間くさい物語に、飼育員の亡命事件や、モノレールからのゾウ落下事件などの逸話を交えつつ語る。

 ゾウ、バク、イルカ、そしてパンダ。片方の動物園が珍獣の入手に成功すれば、もう片方も躍起になって珍しい動物を手に入れようとする。世界各地から野生動物を捕獲し売りこむ動物商も暗躍する。それぞれ東、西の体制の威信がかかっているために、異例なほどの予算措置が執られたようだ。また東側のシュタージ(国家保安省)による監視も、一般市民に比べればやや緩かったようである。

 かくして世界的にも有数の質・規模となった東西ベルリンの動物園だが、ドイツ統一後は歴史に翻弄(ほんろう)される。何しろ一つの街に、ひときわ大きな動物園が二つもあるのだ。将来の歴史展開も見守ってみたい話である。

 なお著者は最後に二人の動物園長を比べ、最終評価を下している。しかしこの判断は読者に委ねてもらった方が、良い余韻となったのではないかと思う。黒鳥英俊監修、赤坂桃子訳。

 ◇Jan Mohnhaupt=1983年、ドイツ生まれ。フリージャーナリスト。文献調査と取材で本書を執筆。

 CCCメディアハウス 2600円

読売新聞
2018年11月18日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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