不安、心配、リラックスできない…。そんなときは「書く」ことで問題を解決
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
ご存知の方も多いと思いますが、『こころが片づく「書く」習慣』(古川武士著、日本実業出版社)の著者はライフハッカーでも連載している「習慣化コンサルタント」。本書の冒頭ではまず、会社勤めをしていた15年前のことを振り返っています。
というのも、当時は仕事に関する気がかりや不安、心配ごとが頭から離れず、心からリラックスできない日々を送っていたというのです。常にやるべきことに追われ、不安が先行して心が落ち着かない状態だったということ。
そんななか、自分よりも忙しいはずの先輩社員や上司が、精神的にはリラックスして見えたのだとか。「なにが違うのだろう」と観察した結果わかったのは、多忙ななかでも冷静でいられる人は「頭の整理」がうまいということ。
仕事の全体像が見渡せており、必要なタスクや期限、仕事のネックやツボを把握しているからこそ、多忙ななかでも冷静さを保てていられるというわけです。
それがきっかけとなって、著者は「あること」を始めます。
私は頭の整理には業務の棚卸が必要だと思い、「書く」ことを始めました。手始めにTo Doリストをきちんと書いてみると、心のざわつきが落ち着くのを感じました。
さらに、予測不能なトラブルへの対処法のシミュレーションを複数立てて書き出すことで、堂々巡りのネガティブな感情が晴れていくのを感じ、ストレスが激減しました。(「はじめに」より)
多忙な状況や重圧こそ変わらなくとも、書くことで頭を整理でき、その結果としてストレスレベルがぐんと低くなったというわけです。
「マインドレス」とは、大量の雑念に意識を奪われて心を失っている状態。やらなければならないことや心配事が多く、忙しいわりになにも終わっていないような状態。当然ながら無駄にエネルギーを奪われ、集中力は落ち、ストレスが増えていくことになります。
では、そんな状態から脱却し、高い集中力と心の豊かさを同時に実現させるためにはどうすればいいのでしょうか?
重要なのは、雑念がなくシンプルな状態で目の前のことに集中できる「マインドフル(心がいまここに集中している)」になること。そこで著者は、書くことによって心をマインドフルにする「書く習慣」を提案しているわけです。
「書く習慣」を実践すると、次のようなメリットがあるそうです。
・ あれこれ意識が分散するのではなく、目の前のことに高い集中力を発揮できる
・ 土日は仕事のことを脇に置いてプライベートを楽しめる
・ ON・OFFの切り替えができ心身共に深くリラックスできる
・ 無用な不安、焦り、自己嫌悪などストレスが減る
・ 家族や部下に八つ当たり、イライラすることが少なくなる
・ 今を生きている感じがあるので生活の豊かさが高まる
(「はじめに」より)
こうしたメリットを自分のものにするために、第1章「なぜ、書くだけで心が片づくのか?」を確認してみることにしましょう。
「書く習慣」はマインドフルへの近道
マインドレスとは、過去の後悔と未来への不安に意識が分散している状態。昨日の仕事の失敗、明日の仕事への不安・プレッシャーに意識がいくと、「いまこの瞬間」から目がそれてしまうわけです。
土日になっても仕事のことが頭から離れず、子どもと遊んでいても楽しめなかったり、不安で眠れなかったりするということ。
しかし、「きょう一日」という区切りで生きることができれば、昨日の後悔、明日の不安から解放されることになるわけです。ただし、そうはいっても、後悔と不安という感情を整理できない限り、きょう一日に意識を集中させることは困難。
そこで、著者は書くことを勧めているのです。
書くことで、過去の失敗から学びと対策が抽出され、後悔や自己嫌悪から解放されます。また、不安という漠然とした感情を整理して、今日やるべきこと、明日に回すことを明確に決めれば、明日のことは翌朝心配すればいいと割り切ることができます。(26ページより)
そのようにして頭を整理し心を片づければ、「いまを大切に生きる」「目の前の仕事に100%集中する」「きょう一日を豊かに生きる」ことが可能になり、生産的でゆとりのある生活を手に入れることができるというのです。
つまり、それがマインドフルな状態。
たとえば電車の移動時間などの隙間時間を利用して書くことで、頭が整理され、安心して目の前のことに集中できる状態をつくることができると著者は言います。(25ページより)
「書く習慣」の効果・特徴
現代のビジネスパーソンは多忙であるだけに、一度にいくつもの仕事をこなさなければならないことも少なくないはず。しかし、大量のタスクや不安に意識を奪われている状態は、次のような悪循環を引き起こすものでもあります。
・ 問題がごちゃごちゃして堂々巡りする
・ ただ悩む状態が続き、心労だけが募る
・ 気が重いからと先延ばしにしているうちに締切が迫り、ますます焦る
・ 複数のことに意識が分散しているので集中力が低い
・ 残業が膨らみ、深夜に帰宅。結果、寝不足が続く
・ あれこれ同時に心配してどれも中途半端に終わる
・ 心が落ち着かないため、家族や部下に当たってしまう
(29ページより)
一方、書くことで頭を整理して心が片づくと、次のような効果が得られることに。
・ 何をすればよいか、行動が明確になる
・ 冷静に問題に対処できる
・ 部下のミスや言動に感情的にならなくて済む
・ 目の前の課題に高い集中力で対応できる
・ ON・OFFの切り替えができ、心身共にリラックスできる
・ 無用な不安・焦り・自己嫌悪などストレスが減る
(30ページより)
心を片づけることで、このようにマインドフルな状態を得ることが可能になるということ。そして、「書く習慣」にはさらに3つの特徴があるそうです。
<特徴①>自分ひとりでできる
「書く習慣」は、セルフコーチング(自分ひとりで悩みを解決できるようになること)できるのが最大の魅力。書くことによって、人からアドバイスをもらわなくても自分の状況を客観視して悩みを整理できるため、解決のための一歩が踏み出しやすくなるということ。
<特徴②>簡単に取り組める
瞑想によるマインドフルネスとは違い、「書く習慣」は仕事中に行うことができ、人目を気にする必要がなく、場所も選びません。また、移動時間など隙間時間を利用して実践できるので、取り組むハードルも低くなるわけです。
<特徴③>多様な感情・問題を扱える
多彩なテーマを扱うことができ、本書で紹介されているワークシートの空欄を埋めるだけで、頭と心を整理することが可能。シートを用意しなくても、ホワイドボードなどにフレームを書いて取り組むこともできます。
(以上、 31~ 32ページより抜粋)
事実や状況、感情を書き出すと、自分と問題との間に距離をつくることができます。すると視野が広がり、客観的にさまざまな解釈が探れるため、解決策が浮かびやすくなることになります。
つまり書くことで、簡単に物事を客観視できるようになり、感情を整理できるということです。(29ページより)
本書は、6つの目的別に構成されているそうです。
6つの目的とは、「不安と焦りを手放す」「自己嫌悪から解放される」「イライラを鎮める」「『考えすぎて動けない』をなくす」「怠惰な生活から抜け出す」、そして「わくわくする毎日をつくり出す」。
そして、それぞれの目的に対する解決策として、全18種類ものワークシートが用意されています。そのため自分の心の状態に合わせて、適切なワークシートを選べるようになっているわけです。
書くのが効果的だとはいっても、いきなり白紙に書くのは難しいもの。でも、枠組み(ワークシート)を埋めるだけなら簡単にできるのではないでしょうか?
Photo: 印南敦史