『「都市の正義」が地方を壊す』
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<東北の本棚>人口減の「ゆがみ」論考
[レビュアー] 河北新報
一方から見れば「正義」でも、他方から見れば「独善」でしかないことがある。地方の人口減少を止めるべく打ち出された「地方創生」が、実は「都市の正義」によってねじ曲げられ、目的を逸脱した事業が行われていると指弾する。
まず疑問視するのが、日本創成会議(増田寛也座長)が2014年5月に発表した論説。地方自治体の約半数が40年までに消滅する可能性があるとし、地方中核都市にダム機能を持たせて人口流出に歯止めを掛ける構想を描いた。
いわば「選択と集中」によって東京への一極集中を避ける意図だが、本書はこれを「末端切り」と批判。背景には人口を高密度に保つ都市を望ましいものとする思考法、つまり「都市の正義」があるとみる。
東京電力福島第1原発事故後の福島県浜通りに新産業を集積する「福島イノベーション・コースト構想」にも言及。被災者のためと言いつつ、内実は国家と資本の都合が潜むという。
そもそも地方から若者が流出するのは「仕事がない」からではなく、農林漁業などの「職業威信」が低いところが原因と指摘する。国民の価値観を絡めた多角的論考が、この国の「ゆがみ」に鋭く切り込む。
著者は1969年生まれ。弘前大准教授などを経て首都大東京准教授。
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