<東北の本棚>地域文化との分断生む

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<東北の本棚>地域文化との分断生む

[レビュアー] 河北新報

 世界遺産は今、世界中に合計1092カ所、日本国内に22カ所ある。しかしブームは一時的なものであり、もとより世界遺産は観光地化が目的ではない。最も大きな問題は、世界遺産に登録された結果、地域文化との分断を生んでしまったことだろう。
 わが国の世界遺産登録第1号になったのが青森、秋田県に広がる白神山地ブナ原生林だ(1993年)。ここでは原生林を分断する林道建設を阻止した自然保護運動なしに、世界遺産登録はなかった。水源林が伐採されれば農漁業に悪影響を及ぼし、洪水の危険性も増す。住民が立ち上がり全国から1万3000通の反対署名を集め、青森県知事の林道中止の決断を呼び込んだ。
 しかし世界遺産になると、ブナ原生林の「自然の貴重さ」ばかりにスポットが当てられ、入山規制の是非を巡る問題に議論が向けられた。ブナ帯の「文化」の側面が忘れられ、住民の暮らしやマタギたち狩猟民の文化がなおざりにされた。
 白神山地と同時に世界遺産になった屋久島。来島者は一時、登録以前より倍増したが、ここ十数年は減少傾向にある。ここでも屋久島の自然的価値ばかりが注目され、住民との乖離(かいり)が指摘される。島の山に登り神を礼拝する伝統的な「岳参り」を復活させようという活動が行われている。
 著者は1956年千葉県生まれ。日本自然保護協会で研究員を務め、世界遺産のわが国への導入にも早くから携わった。筑波大大学院教授。
 しかし世界遺産と住民との乖離がなぜこうも起きるのか。「世界遺産に何の意味があるのか」という声さえある。存在意義そのものを問う視点も、必要ではないか。
 山と渓谷社03(6744)1900=950円。

河北新報
2018年11月25日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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