涙ばかりでもない、リアルな家族の看取り――『有村家のその日まで』著者新刊エッセイ 尾﨑英子

エッセイ

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

有村家のその日まで

『有村家のその日まで』

著者
尾﨑英子 [著]
出版社
光文社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784334912482
発売日
2018/11/21
価格
1,870円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

涙ばかりでもない、リアルな家族の看取り

[レビュアー] 尾崎英子(作家)

 昨夏、実母を亡くしました。それまで病気一つしたことがない母だったので、ステージ4の癌(がん)が見つかったと知らされた時には、たしかに寝耳に水ではあったものの、妙に冷静に受け止めたように思う。いつも斜め上を行く母だったので、今度はそう来たか、という感じだった。

 告知から一年足らずで、母は天寿をまっとうした。アクセル全開で突っ込んでいったような印象です。百歳くらいまで生きるだろうと思っていたのに、享年六十九とは今の世だと「まだお若いのに……」と惜しまれるくらいでしょう。人の命なんてわからないというのは、手垢(てあか)だらけの感慨だけどそのとおりだな。親の死をもって、その真意を知らしめられた。

 新作『有村(ありむら)家のその日まで』は、そうした母の看取りの経験を下敷きにした物語です。あくまでも「有村家」という家族のお話でありつつも、いろんな場面に「尾崎(おざき)家」も詰め込まれている。たとえば有村家の母・仁子(じんこ)のモデルとなる私の母も、仁子さんと同じく、途中から標準治療をやめて代替療法にはまり、実家には毎日宅配便が届くようになった。すごい乳酸菌やヨード系のドリンクや波動の高いクリームなどが、じゃんじゃか配達されるのです。iPad一つで物が購入できてしまう便利なシステムの弊害とでも言うべきか。母の病気が快方に向かってほしいと願いながらも、サプリメント代だけで月に数十万円が引き落とされると、no more 代替療法! と言いたくなったものでした。

 こういう当事者たちにしてみれば悲劇だけど、少し引いてみると喜劇みたいな“家族の死”というのは、誰の身にも起こりうることなのかもしれない。涙ばかりの母親の死の話ではなく、こんな家族がいるのかと笑ってもらえると嬉しい。自らの経験を重ね合わせた方の、何かしらの救いになれば、なおのこと。多くの人の心に届くものでありますようにと願っております。

光文社 小説宝石
2018年12月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク