『正しい愛と理想の息子』
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きもちわるいタイトル
[レビュアー] 寺地はるな
自分の子どもを愛していますか? と訊かれたら、わたしは自信をもって「はい」と答えるだろう。この世の誰よりも、心から、わたしはわたしの息子を愛しています。
それから、すこし声をちいさくして「でも」と続けるだろう。でもわたしの愛が、わたしの子どもの人生にとって有益なものであるかどうかはわかりません、と。
他人に育児のことで悩んでいる、という相談をするとまれに「あなたはお子さんをとても愛しているのだから、なんとかなるわ。だいじょうぶよ」というような、よくわからないフォローをされることがある。そんなわけないと思う。愛があればだいじょうぶなんて、いくらなんでも乱暴じゃないだろうか。
むしろ、愛ゆえにいろんな選択を間違ったり、暴走したりするものなのではないだろうか。
育児に関して言えば、愛よりも「賃貸のアパートの壁一面に油性ペンで落書きされても驚かない冷静さ」とか、「犬に追われた時に子どもを小脇に抱えて走れる体力」、あるいは「離乳食をドベッと吐き出されても折れることのない心の強さ」などのほうがよっぽど役に立つ気がする。
もちろん愛なしに子どもは育てられないのかもしれないが、愛だけでも、子どもは育てられない。
そもそも愛というのは、世間で言われているほどきれいで尊いものなのだろうか。それが、この小説を書こうと思ったきっかけのひとつだった。
『正しい愛と理想の息子』。自分でつけたタイトルではあるが、何度読んでもウッとなる。正しい愛ってなんだよきもちわるい、と思わずにいられない。
そしてこのタイトルを目にした時、同じように「うわ! きもちわるい!」と感じる人にこそ読んでほしいな、とひそかに願っている。