物語の種はどこにでも転がっている――『聖女の天秤 ~お仕置きまでがお仕事です~』著者新刊エッセイ りぃん

エッセイ

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聖女の天秤 ~お仕置きまでがお仕事です~

『聖女の天秤 ~お仕置きまでがお仕事です~』

著者
りぃん [著]
出版社
光文社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784334912376
発売日
2018/11/21
価格
1,320円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

物語の種はどこにでも転がっている

[レビュアー] りぃん(作家)

 我が家では、冬の時期限定の奇跡に出くわすことがある。

 なんと、突き回し噛(か)みつきvs猫パンチの応酬が日常茶飯事のインコと猫が、寒さのせいで寄り添ってお昼寝をする光景だ。

 丸くなって眠る気弱な猫のふわふわなお腹に、嘴(くちばし)を半開きにして眠る鬼姫インコが埋もれている。どちらも真っ白なので、よくよく目を凝らさないと気づかない。

 飼い主は、声を殺して悶(もだ)えながらスマホをかざすのだけれど、シャッターチャンスには目を覚まして逃げてゆく。

 私の身近で起こる、インコと猫が主役のちょっとしたファンタジー。彼らが人間と同じ言語で会話したら、きっと面白いだろうね。そんなことを空想していたら、ぼんやりした何かがふっと頭の中で生まれた。

 冬に起こった、もうひとつの奇跡。

 学生時代に犬猿の仲だった男女の友人が、互いに結婚と離婚を経験して、電撃再婚した。出張先の企業で、ライバル会社の営業同士として偶然再会したのだという。

 学生の頃にいがみ合ったまま卒業して、それきり一度も顔を合わせなかったのに。なんて彼ららしい奇跡だろう。でも、私を含む友人たちは、結婚までの経緯を聞いて大笑いした。

 そこでまた、空想が弾(はじ)ける。

 天敵同士がタッグを組んで、恋や友情なんかも絡んで、真の黒幕を倒すお話はどうかしら。悪役が権力者なら、こっちは非情な女神様を引っ張りだして勧善懲悪してみたり。

 そんなふうに身近に転がっている物語の種を摘まみ上げて、空想というプランターの中で育て始める。面白い花が咲くか、楽しい実がなるか。美しい大輪の花にも挑戦してみたい。

 私が丹精込めて育てた花や実が、いつか誰かの心の奥で新しい『何か』の種になれたらいいなあなんて空想するのだ。

光文社 小説宝石
2018年12月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

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