復興の神戸を舞台に描く金塊ミステリ
[レビュアー] 東えりか(書評家・HONZ副代表)
神戸市灘にある酒造会社で蔵人として働く葉山和之は入社して四年の中堅だ。幼いころに父を亡くし、病気の妹の治療のために必要な金を稼ぐべく、謎の男、クロエを手伝い、密輸された金塊の強盗に手を貸す。しかし、そのクロエが何者かに殺され、金塊は奪い去られていた。四つのキャリーケースに詰められた金塊は金額にして五億八千万円。和之がこの事件に手を貸したという証拠はない。だが様々な監視機構は彼を徐々に追い詰めていった。
現代の物語の遠景に阪神・淡路大震災によって忘れ去られた事件が語られる。「日本史上最高金額の銀行強盗」。クロエは和之の父親がその犯人だと告げる。妹の治療費を稼ぐために働きづめの母はそれを知っているのか。父親はだれなのか。銀行強盗で得た金と、奪われた金塊はどこへ行ってしまったのか。
金塊の持ち主であるヤクザから一週間の期限を設けられた和之の必死の探索が始まった。
神戸はおしゃれな街だと思われている。震災から復興し、いまでは災害の影さえ見えないようだ。
だが生活困窮者は固まって暮らしていた。クロエは彼らの元締めとして生活保護費を受け取る代わりに日々の暮らしが成り立つように衣食住の手配をしていた。
和之はその仲間の手を借りて真実に近づいていく。一般社会から排除されたような人たちだが彼らの能力は高い。それぞれの得意な技を合わせたチームワークは強力だ。
警察とヤクザ、そしてクロエの仲間たちが繰り広げる知能戦に胸が躍る。金塊の隠し場所がわかったときには思わず「わっ」と声を上げた。繊細に張り巡らされた伏線が次々と回収されるラストシーンは見事だ。