『静かに、ねぇ、静かに』 本谷有希子著

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静かに、ねぇ、静かに

『静かに、ねぇ、静かに』

著者
本谷 有希子 [著]
出版社
講談社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784065128688
発売日
2018/08/23
価格
1,512円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『静かに、ねぇ、静かに』 本谷有希子著

[レビュアー] 岸本佐知子(翻訳家)

突き抜けた清々しさ

 読みながら、何度も「うわあ……」と変な声が出た。収められた三編は、どれもダメな人々がさらにダメになっていく話だ。あまりにリアルで息苦しく、逃げ出したいと思いながら、ページを繰る手を止められなかった。

 冒頭の「本当の旅」では四十近い自称クリエーター、実質ニートの男女三人がマレーシアに旅行する。彼らは何もかもをスマホで記録することに明け暮れ、インスタ上で自分たちが楽しそうに「見える」ことを何より重視する。都合の悪い出来事は編集で全部カット。ネットに溢(あふ)れる借り物のきれいな言葉で自分のダメさを正当化し、互いに「いいね」「いいね」と肯定しあうことでそれをさらに補強する。<俺は、俺の眼差(まなざ)しを守ってる。社会から報酬を貰(もら)わないことで、人とは違う眼差しを手に入れてる。どんな眼差し? 子供の眼差しだよ>。全編にそんな気持ちの悪いえせポジティブ会話があふれている。そうやって目の前の現実に対して思考停止を続けた結果、三人はある深刻な状況におちいるが、そんな風になってもなお自撮り棒の前でポーズを取ることをやめられない。

 ネットショッピング中毒の主婦。なんとか普通の生活を手に入れようとあがく失業夫婦。イヤすぎて目を背けたくなるが、そうできないのは、ぜんぜん他人事という気がしないからだ。生きる力が弱すぎてネットに頼らずにいられない、この人たちを笑うことは、一日たりともツイッターを我慢できない私にはできない。

 この本の表紙、題名(頭文字をつなぐとSNSになる)が裏返しになっている。じっと見ていると、自分が鏡の裏側にいるような気がしてくる。「ほら、これはあなただよ」そう言われているようだ。けれども非難も断罪もせず、ただ淡々と情景を写し取る作者の態度は、非情を突き抜けていっそ清々(すがすが)しい。私たちはもうここから始めていくしかないんだ、そんな裏返しの勇気すら湧(わ)いてくる気がする。

 ◇もとや・ゆきこ=1979年、石川県生まれ。作家、劇作家。『異類婚姻譚(たん)』で芥川賞を受賞。

 講談社 1400円

読売新聞
2018年11月25日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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