『ガンディーとチャーチル 上・下』 アーサー・ハーマン著

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ガンディーとチャーチル(上)

『ガンディーとチャーチル(上)』

著者
アーサー・ハーマン [著]/田中 洋二郎 [監修、訳]/守田 道夫 [訳]
出版社
白水社
ジャンル
歴史・地理/外国歴史
ISBN
9784560096413
発売日
2018/06/22
価格
4,320円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

ガンディーとチャーチル(下)

『ガンディーとチャーチル(下)』

著者
アーサー・ハーマン [著]/田中 洋二郎 [監修、訳]/守田 道夫 [訳]/平川 祐弘 [解説]
出版社
白水社
ジャンル
歴史・地理/外国歴史
ISBN
9784560096420
発売日
2018/08/28
価格
4,320円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『ガンディーとチャーチル 上・下』 アーサー・ハーマン著

[レビュアー] 三浦瑠麗(国際政治学者・東京大講師)

国の運命背負った二人

 インドと大英帝国それぞれの英雄に着目し、互いの国の交わりを描く歴史大河の労作だ。本書は、シパーヒー(英国東インド会社の指揮下のインド人兵士)の反乱を告げる呼び声と、血まみれの殺戮(さつりく)の描写から始まる。逃げ惑う人びと。つい昨日まで交遊していた相手が、配下であったはずのシパーヒーをおし立てて妻や娘を惨殺しに来る。残酷で目をそむけたくなるような血も涙もない殺戮は、血で血を洗う植民地制圧を呼び起こす。人間がどうして非道の領域に足を踏み入れていったのかを読者に伝えるには、もっとも力ある文章と言わざるをえない。

 インド大反乱(1857年)は大英帝国の植民地統治を形作り、その周到で偽善に満ちた統治が、ガンディーのような英雄を生んだ。インドは独立を果たすが、ガンディーの夢は破れ、インドはパキスタンと分離・対立し、今日に至るまでインド国内の異なる集団間での虐殺は姿を消していない。これらのことはみな、ここ僅(わず)か160年のあいだに起きたことなのだ。

 本書は、二人が背負おうとした国の運命を記述する。その過程で、ガンディーが夢見たものも、チャーチルが夢見たものも壊れていった。著者の筆からは、植民地統治の悪と白人の傲慢(ごうまん)や、インドの後進性といった型通りの記述や、嘆息では処理しきれないほどの思いが伝わってくる。英国人である著者自身にとっても、父親を通し、インドは大きな存在だったからだ。

 自己を見つめ直し、相手を理解しようとする。近年、西洋の側から、システム構造の視角でもなく、糾弾調でもなく、また懐古趣味でもない近代史の振り返りが目立つようになってきた。近代を振り返る機会は、おそらく今後もっと頻繁に訪れるだろう。時代の変わり目には終わったものを見つめ直す作業が控えている。人びとは歴史の結び目から身をほどこうとしながらも、衝動に突き動かされて逃れがたく過去を振り返るのである。田中洋二郎監訳、守田道夫訳。

 ◇Arthur Herman=1956年生まれ。アメリカを代表する歴史家。本書はピュリツァー賞最終候補に。

 白水社 各4000円

読売新聞
2018年11月25日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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