『母と子のメルヘン ショパンの鍵』
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<東北の本棚>震災の悲嘆と向き合う
[レビュアー] 河北新報
東日本大震災で大きな被害を受けた大船渡市在住の作家による、震災をテーマにした童話集。失った古里への思い、生きる意味、家族の絆…。メルヘン的な要素を織り交ぜながら、多様な切り口で震災と向き合った13編を収録した。
表題作は、津波で両親を亡くした「ぼく」が主人公。お母さんが大事にしていた、ショパンの「別れの曲」が流れるオルゴールの鍵を巡る物語だ。
ある日の夕方、震災前に飼っていたセキセイインコに導かれてなじみのレストランに行くと、死んだはずの両親が座っていた。お母さんは、オルゴールの鍵をぼくに握らせ「悲しいときに鍵を胸に当てて別れの曲を聴くと、悲しみが消え心がいやされる」と言う。
次の日、ブロックの基部だけが残る家の跡地を歩いたぼくは、キラリと光る鍵を見つける。そして、両親のいない入学式を迎えた小学1年の妹に「これを握りしめて」と鍵を渡し、2人で別れの曲を聴く。
母親の深い愛情が美しい旋律となって、2人を包み込んでいく様子が目に浮かぶ。切なくも、ぬくもりあふれる内容だ。
作品は全て、2015~17年に雑誌「保健室」で連載された。
著者は1944年、陸前高田市生まれ。民主主義文学界会員。
本の泉社03(5800)8494=1728円。