<東北の本棚>日本型循環社会回帰を

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文明の精神

『文明の精神』

著者
安田 喜憲 [著]
出版社
古今書院
ジャンル
哲学・宗教・心理学/宗教
ISBN
9784772271462
発売日
2018/10/05
価格
4,180円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<東北の本棚>日本型循環社会回帰を

[レビュアー] 河北新報

 地球環境の危機が叫ばれる中、救済策は自然の再生、人との共存の道を探る以外にないだろう。著者はわが国初の「環境考古学」の提唱者。縄文時代から現代、そして未来を通観した上で「森里海、生命の循環を守れ」と訴える。
 1946年三重県生まれで、東北大大学院で地理学を学ぶ。英国と日本の森林破壊の違いを比較するところから、著者の本格的な研究がスタートした。
 英国は牧畜、畑作農耕により、森林は既に破壊し尽くされていた。家畜を核とする農耕社会は、自然を搾取して利益を上げる地域システムをつくる。しかし一時的に発展しても、いずれその社会は破滅に向かう。欧州型のシステムが世界に拡大し、今日の地球環境の危機を招いた、と解説する。
 稲作漁労中心の日本は、生産の場は河川の下流域にある。森林の下草や落ち葉を水田に入れ、海のイワシの干しかすや海藻を肥料にした。森と里山と海、水の循環系を上手に利用して食料を生産し、人々は暮らしを守ってきた。現在も森林は国土の6割以上を占める。縄文以来の日本の伝統的な循環型社会、システムにこそ、持続可能な社会をつくるヒントがある、という。
 太平洋戦争の敗戦ショックで、欧米文化は何事も優れたものと受け入れてきた。それは地理学の分野にも及んだ。欧米の価値観を否定、超克しようとする著者の理論が「市民権」を得たのは、そう昔のことではない。学界の中で壁にぶち当たり孤立、苦闘する赤裸々な告白が、もう一つの読ませどころだ。国際日本文化研究センター(京都市)名誉教授、ふじのくに地球環境史ミュージアム(静岡市)館長。
 古今書院03(3291)2757=4104円。

河北新報
2018年12月2日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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