『人間狩り』
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SNS時代の“正義”を問う
[レビュアー] 三浦天紗子(ライター、ブックカウンセラー)
物語の発端は、20年前に起きた女児殺害事件の犯行映像が闇サイトのオークションに出品されたことだった。件(くだん)のDVDは、警察内部から流出した可能性が高いことがわかり、警察内の不祥事や不正行為を挙げる役割を担う監察係の白石は、関係者への捜査を開始する。しかし空振り続きでなかなか犯人にたどり着けない。
一方、カード会社で督促の仕事をする江梨子は、あるきっかけから、不道徳な面々をネットで炎上させて懲(こ)らしめる〈自警団〉サイトの活動にのめり込む。そこで親しくなったサイト管理人の弥生と、有名投稿者の少年〈龍馬〉とともに、江梨子は女児殺害事件の犯人=元少年Aを追い詰めようと決意。ほどなく、少年法に守られ、名前を変えて社会復帰していた当時14歳だった犯人の素性を突き止める。
パラレルで走る二つの犯人探し、すなわち追い詰める側の正義感が、思いがけない形でつながるところまではスリリングなのに、読後もやもやしたものが残る。だが、そこが本書のキモ。
正義は怖い。時代や社会が変われば、その軸はいとも簡単にズレるし、その御名(みな)の下には非道な行為も起こるからだ。罪と罰のアンバランスに憤る正義感は誰しもが持つものだが、それを「ネットに晒(さら)す」というリンチのような形で糾弾することは許されるのか。現代ではSNSが、正義を問うときの大きな装置となっているがゆえに、発言ひとつ、行為ひとつで社会的に抹殺する/されるリスクが常にある。そんな現代社会を転写した舞台を用意し、正義の本質や義憤の危うさを問いかける。
著者は、本作で横溝正史ミステリ大賞の優秀賞を受賞。新人離れしたリーダビリティーを持つ期待の星の誕生だ。