情報が氾濫する社会で必要なのは高品質の「解説」
[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)
医療と健康に関する情報が氾濫している。「これが危険だ」と危機感をあおるものばかりだ。でもその情報、信頼できるものですか?
康永秀生『すべての医療は「不確実」である』を一読してみることをおすすめします。グルコサミンで関節痛予防とか、加工肉に発がん性があるので摂取をひかえたほうがよいなどの情報は、眉唾どころかほぼウソ。この本が素晴らしいのは、それらをウソと指摘するからではない。「なぜウソだと言えるのか」を、世界中の膨大な医学論文やデータを評価するしくみに拠りながら、標準的な知能をもった人間ならば「これが妥当な解釈である」と納得できるように解説しているからなのだ。また、シロかクロかではなく、すべての治療や薬はグレーなのだということもうまく解説してくれる。著者は医師だが、こうした説明ができる医師はまれであり、まず偶然には出会えない。
インフルエンザの薬タミフルで子どもに異常行動が現れると大きく報道されたことがある。情報の一部分だけを切り取って伝える、質の低い報道の一例だ。タミフルを飲まなくても、インフルエンザの患者には異常行動が現れることがある。「タミフルが犯人」と断定するのはどうなのか。また、ワクチン接種の危険性を過大視することで未接種の人が増え、結果的に感染症が社会をおびやかすのはご存じのとおり。いま必要なのは不確かな「情報」ではなく、高品質の「解説」なのである。