『ヨーゼフ・メンゲレの逃亡』 オリヴィエ・ゲーズ著/『パールとスターシャ』 アフィニティ・コナー著

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ヨーゼフ・メンゲレの逃亡

『ヨーゼフ・メンゲレの逃亡』

著者
オリヴィエ・ゲーズ [著]/高橋啓 [訳]
出版社
東京創元社
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784488016661
発売日
2018/10/21
価格
1,944円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

パールとスターシャ

『パールとスターシャ』

著者
アフィニティ・コナー [著]/野口百合子 [訳]
出版社
東京創元社
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784488016654
発売日
2018/09/28
価格
3,132円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『ヨーゼフ・メンゲレの逃亡』 オリヴィエ・ゲーズ著/『パールとスターシャ』 アフィニティ・コナー著

[レビュアー] 土方正志(出版社「荒蝦夷」代表)

個人の生がつむぐ歴史

 アウシュヴィッツの<死の天使>こと医師ヨーゼフ・メンゲレ。強制収容所のユダヤ人の生殺与奪をほしいままに、優生学のためと称した凄惨(せいさん)な生体実験で多くの命を屠(ほふ)った。南米逃亡中にイスラエル諜報(ちょうほう)機関によって逮捕処刑されたアドルフ・アイヒマンと並ぶナチス・ドイツの残虐行為の象徴的人物であり、二十世紀の「怪物」のひとりである。第二次世界大戦でドイツが敗れると、連合国の追跡をかわして、南米へと脱出、アイヒマンら逃亡者が次々と捕(とら)われ断罪されるなか、メンゲレは遂(つい)に逃げ通して、一九七九年、潜伏地ブラジルで六十七歳で死亡した。

 その逃亡から死までを緻密(ちみつ)にして綿密な取材で追ったのが『ヨーゼフ・メンゲレの逃亡』。戦犯の逃亡を助ける組織が、故郷の家族がメンゲレの潜伏を支える。潜伏中の晩年の父をドイツからたずねた息子のエピソードなど、多くの思惑と葛藤が複雑に絡まり合った逃避行の果てに、メンゲレを待っていたのは恐怖と絶望、孤独と老残の死だった。認知症だったともある。

 アウシュヴィッツのメンゲレは収容者から双生児の子どもたちを選別して生体実験を行なった。実験対象となったひと組の姉妹を中心に、メンゲレらナチスの、子どもたちを生き延びさせようと苦闘するユダヤ人収容者の、そして過酷な運命にさらされながら生を支え合う子どもたちの姿を描いたのが『パールとスターシャ』。本書は小説ではあるが、訳者あとがきによるとなかにはモデルとなった実在の人物もいる。生き残った彼ら彼女たちの自由への行路とその後の人生に、読者は己の背筋を伸ばさずにはいられないはずだ。人間とはかくも逞(たくま)しい。

 抑えた筆致で加害者と被害者の<生>に迫った偶然の連作ともいうべきこの二冊、ぜひとも続けて読まれたい。大言壮語や声高なスローガンからは決して見えてこない、個人の<生>こそが語りかけてくる確かな歴史がここにある。高橋啓/野口百合子訳。

 ◇Olivier Guez=フランスのフリージャーナリスト

 東京創元社 1800円

 ◇Affinity Konar=アメリカの女性作家。

 東京創元社 2900円

読売新聞
2018年12月2日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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