『プラハ、二〇世紀の首都』 デレク・セイヤー著

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プラハ、二〇世紀の首都

『プラハ、二〇世紀の首都』

著者
デレク・セイヤー [著]/阿部 賢一 [訳]/宮崎 淳史 [訳]/河上 春香 [訳]
出版社
白水社
ジャンル
歴史・地理/外国歴史
ISBN
9784560095829
発売日
2018/09/28
価格
14,580円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『プラハ、二〇世紀の首都』 デレク・セイヤー著

[レビュアー] 鈴木幸一(インターネットイニシアティブ会長CEO)

花開くシュルレアリスム

 なぜ「20世紀の首都がプラハ」なのか。19世紀の首都「光の都」パリに対し、プラハはその「暗さ」が特徴だと、著者は言う。しかし、その<古いヨーロッパの魔法の都>には、アヴァンギャルド、モダニティ、シュルレアリスムといった多彩な文学や芸術が花開いた。ホロコースト、スターリンの時代に生きたシュルレアリストの足跡を辿(たど)ることで、「暗いプラハ」の記憶を蘇(よみがえ)らせ、20世紀の欧州の歴史に、異なる視野を提示してくれる浩瀚(こうかん)な書である。

 「ユダヤ人街の大時計の針はさかさにまわる」。シュルレアリスムという単語を創り出したアポリネールが若い頃、20世紀初頭のプラハに滞在した記憶に基づく詩の一節は、シュルレアリスムとプラハを語る象徴的な言葉だ。プラハは中欧のユダヤ人コミュニティの中核だった。ユダヤ人ゲットーで育ったカフカは、「私たちの内部には、相変わらず暗い場末が生きています、曰(いわ)くありげな通路が、盲(めし)いた窓が、不潔な中庭が」と回想している。彼らは生活空間だけでなく、埋葬場所も厳しく制限されていた。

 1918年にハプスブルク帝国から独立したチェコは、ナチスドイツの保護領、ソ連の監視下にあった共産主義体制を経て、民主国家に至るまで様々な激動を経験した。タイゲやネズヴァルらがパリの芸術家たちに倣って、チェコ・シュルレアリスム・グループを結成したのは34年、ヒトラーが政権の座についた翌年のことだった。「コミカルな卑俗さ」「風刺とユーモア」を特徴とする作品は、ナチスやソ連公認の「民族的」「道徳的」芸術の対極にある。

 「プラハの春」後、フランスに亡命した作家ミラン・クンデラは、大国の傲慢(ごうまん)な無知に直面し、みずからの存在がたえず脅かされ、幸福な感覚を知らない「小国民」の悲哀を見ている。傲慢な大国と小国、政治と芸術の深い溝を改めて考える意味でも、手に取って欲しい書である。阿部賢一ほか訳。

 ◇Derek Sayer=1950年英国生まれ。アルバータ大名誉教授。本書でジョージ・L・モス賞など受賞。

 白水社 1万3500円

読売新聞
2018年12月2日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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