「人の頭の中を覗いてみたい」ユニークな女性写真家
[レビュアー] 大竹昭子(作家)
「中学のときは、極限になるとお皿を割っていた。100円ショップでたくさん買ってきて、床に叩きつけて割る」
皿の割れる音が聞こえてきそうな迫力だが、こう語った女性は写真で見ると物静かな雰囲気だ。ロングヘアーに水玉模様のワンピース。マンホールの蓋に跪(ひざまず)いてじっとカメラを見つめている。
逆に、写真を先に見るとどうなるか。前髪を切りそろえたきりっとした顔立ちの女性は、文机を背に素っ裸でしゃがみ込んでいる。文章には「顔面は、ほぼ整形してるんですね」とあり、驚いて写真ページにもどる。
こうして、写真と文章による現代女性のポートレートは小気味よくこちらの思い込みを裏切っていく。「人の頭の中を覗いてみたいという欲望がある」と著者。ウェブサイトで写真に撮られたい人を募集し、会って話を聞き、どんな状況でどんな動作をしてもらうと聞いた話が生きるかを考える。写真家がモデルをインタビューすることも、演出して撮ることも珍しくないが、両者を合体させたところに彼女のオリジナリティーが発揮されている。インタビューで見た目では分からないその人の背景や考えや感情を聞きだしても、その人をふつうに写してはせっかく覗いた頭の中が見せられないから、彼女たちを非日常的な状況に置いて「別人」になってもらう必要があるわけなのだ。
トイレの便座に座ってフライドチキンを食べる人、歩道に枕を置いて仰向けに寝る人。パジャマ姿で裸足で走る人。街路でのきわどい撮影も一瞬をとらえるカメラならできてしまう。そうした写真の瞬発力が撮影者とモデルのエネルギーをスパークさせている。
人の頭の中を覗いてみたいという著者の欲望は小説家のそれに近いが、でき上がったものが写真であるところが“表現のいま”を感じさせて新鮮だ。