『未来をはじめる』 宇野重規著

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未来をはじめる

『未来をはじめる』

著者
宇野 重規 [著]
出版社
東京大学出版会
ジャンル
社会科学/政治-含む国防軍事
ISBN
9784130331081
発売日
2018/09/27
価格
1,728円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『未来をはじめる』 宇野重規著

[レビュアー] 坂井豊貴(経済学者・慶応大教授)

中高生と考える政治

 魚は水のなかにいる自覚があるだろうか。たぶんないだろう。鳥が空にいる自覚も、おそらくない。その中にいることが当たり前のものに、気付くことは難しい。思考するとなると尚更(なおさら)だ。

 人間は社会のなかにいる。この当たり前のことを著者は突きつける。それは平易にいえば「人と一緒にいること」だ。それには楽しさもあれば、辛(つら)さや面倒さもある。どうにか関係や利害を調整し、何とかやっていく。政治とはそのことだ。議会だけでなく、職場や家庭にも政治はある。本書は、そう語る著者の豊島岡女子学園での講義をまとめたものだ。

 中高生の教室にも、もちろん政治はある。たとえば修学旅行の行き先を決めるとき。目立つ生徒が「ハワイ」と主張し、その友人たちが大きな声で賛同したとする。目立たない生徒の反対の声は、聞いてもらえなかった。著者は、一八世紀の思想家ルソーなら、こういうのを一番嫌うだろうという。特定の人や集団の意見が、合議のふりをして皆を支配すること。それは服従の強要、自由の否定であると。各人は自由な個人として、何が皆にとって望ましいかを考えねばならない。ここでは「私たち皆にとって望ましい修学旅行の行き先はどこか」と問いを立てるのだ。この問いの熟慮による結論が、皆が意志するものである。ルソーの有名な「一般意志」論だ。

 だが一般意志への到達は、どれほど実際に可能なのか。また一般意志を至高とする政治は、生きづらくないのか。概念や思想に、制度や歴史を交え、著者はやさしく語る。中高生に問いかけ、言葉を引きだす。そうして社会の認識と、思考をうながす。むろんこれは一例にすぎない。

 著者と生徒とのやり取りは率直だ。ルソーのエピソードに触れながら「ルソーっていまなら絶対ツイッターで炎上しているよね」、「あはははは!」と楽しい会話も繰り広げられる。そうして生まれた思考は未来をかたどるだろう。であれば未来はすでにはじまっているのだ。

 ◇うの・しげき=1967年生まれ。東大教授。専門は政治思想史。著書に『民主主義のつくり方』など。

 東京大学出版会 1600円

読売新聞
2018年12月9日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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