悪魔、オカルトだけじゃない! あなたの知らないヘヴィメタルの珍世界 『意味も知らずにヘヴィメタルを叫ぶな!』特別対談 冠徹弥(THE冠)×川嶋未来(SIGH)
対談・鼎談
- リットーミュージック
- [対談・鼎談/レビュー]
- (音楽)
『意味も知らずにヘヴィメタルを叫ぶな!』
- 著者
- 川嶋未来 [著]
- 出版社
- リットーミュージック
- ISBN
- 9784845633319
- 発売日
- 2018/12/15
- 価格
- 1,760円(税込)
悪魔、オカルトだけじゃない! あなたの知らないヘヴィメタルの珍世界 『意味も知らずにヘヴィメタルを叫ぶな!』特別対談 冠徹弥(THE冠)×川嶋未来(SIGH)
[文] 山本彦太郎
ヘヴィメタルで歌われる意味を、歌詞の方面から紐解いていく『意味も知らずにヘヴィメタルを叫ぶな!』。ヘヴィメタルの歌詞は、いわゆる悪魔ネタも少なくないが、実は社会的テーマを取り上げた曲から、思った通りのバカバカしく下品な曲まで幅広く、一言では言い尽くせない魅力がある。
本書には、イアン・ギラン(ディープ・パープル)、フィリップ・アンセルモ(本パンテラ)、アレックス・ウェブスター(カンニバル・コープス)、ジェフ・ウォーカー(カーカス)といった著名ミュージシャンの独占インタビューが掲載されているほか、THE冠で活躍するハイパー・ヘヴィメタル・ヴォーカリスト、冠徹弥と、本書著者である川嶋未来の対談も実現した。“等身大の日本語”でヘヴィメタルを歌う冠と、海外著名バンドとの交友もある川嶋。その二人が問う、フィクションでありノンフィクションであるヘヴィメタルとは?
70年代にはまだファンタジーが残っていて、それがヘヴィメタルの世界に入っていくきっかけにもなっていると思う(川嶋未来)
川嶋未来:個人的な意見ですが、ヘヴィメタルって80年代の産物だと思うんですよ。というのも、例えばプロレスだとかオカルトだとか、僕らが育った70年代って良い意味で無茶苦茶でしたよね。テレビでは『あなたの知らない世界』がやっていて、中岡俊哉(超常現象研究家)や矢追純一(テレビ・ディレクター)、つのだじろう(漫画家)の話を本気で怖がっていた。
冠徹弥:子供の頃は本当に怖かったですね。テレビでやってることをすべて信じてましたからね。
川嶋:プロレスも、真剣勝負だと思って観ていたし、覆面レスラーは本当に国籍不明だと思っていた。ただ、そういう現象って日本だけではなくて、70年代は世界的にそうだったと思うんです。『エクソシスト』や『オーメン』などが流行っていたわけで、世界中の人がそういう、ある意味アホなものを真剣に信じていた時代だったんですよ。で、そういう人達が80年代に十代になって始めたのがヘヴィメタルだったと思うんです。
冠:僕がまさにそれですね。
川嶋:逆に80年代が過ぎてヘヴィメタルが衰退したのは、その後に産まれた子供たちはそこまでバカじゃなかったから。もっと現実を見ていたからだと思うんですよ。
冠:確かにそうですね。テレビでも裏側を見せたり、よりリアルを求める時代でしたね。プロレス・ファンが格闘技ファンへと移行したのに似てます。
川嶋:80年代にW.A.S.P.が出てきたときも、彼らの「女の先生をレイプして放校になった」といったエピソードを信じていた。プロレスの延長線上ですよね。そもそも、冠さんはどういったきっかけでヘヴィメタルを聴き始めたんですか?
冠:きっかけはヴァン・ヘイレンで、当時はMTVで「Jump」がよく流れていて、それを観てギターとかバンドをやりたいと思ったんですね。ただ、実はその前に、僕もプロレスが大好きなんですけど、ロード・ウォリアーズの入場曲がブラック・サバスの「Iron Man」で、あれがヘヴィメタルだとかは知らずにノってたりはしたんです。僕の原点はそこかな、と。
川嶋:ロード・ウォリアーズも本当に怖かったですね。
冠:怖かったです。本当に生肉を食ってると思っていました。ちなみに今の僕の上半身の衣装はロード・ウォリアーズをパクりました。
川嶋:ヘヴィメタルも同じで、音ももちろん大好きなんですけど、そういうバカな世界観に惹かれたんですよね。ちなみにそのときって、歌詞とかは気にしていましたか?
冠:その頃はまったく気にしていなかったですね。どうせお姉ちゃんがどうたらって感じだと思っていましたし。そこから段々とジューダス・プリーストとか激しい音楽が好きになっていきましたけど、メタルがどうこう、光線がなんたらみたいな感じをやんわりとわかったぐらいですね。……オジー・オズボーンはちゃんと歌詞を読んでいたかな。「Mr. Crowley」とか「Diary Of A Madman」には恐ろしい世界観、オカルトっぽい感じがありましたから。そういえば、当時はコピー譜を見てギターを練習していたんですけど、「Diary Of A Madman」のコピー譜にはコードと一緒に歌詞の和訳も載っていたんですね。ただ、出だしの部分が「窓を開けて絶叫。俺はもうすぐ死ぬで」ってなってる。「死ぬで」ってのがなんで関西弁やねんて思いました(笑)。
川嶋:オジーは『Bark At The Moon』の「Centre Of Eternity」とかも怖かったですね。夜に聴くとトイレに行けなくなりそうな感じ。
冠:鐘の音とかですね。ブラック・サバスも、ファースト・アルバムのジャケットなんて心霊写真みたいで怖いですし、曲も悪魔的な音階というか、かなり惹かれました。当時は、オジーは好き好んでコウモリとか鳩を食いちぎっていると思っていましたから。
川嶋:ファンが投げ込んだオモチャのコウモリだと思って噛みついたんですよね。それ
が本物だったんで慌てて病院に行ったという(笑)。
冠:どこかの記念碑に立ち小便をしたら666という数字が浮かび上がってきたとか(笑)。そういうエピソードは本気にしていましたし、プロレス的ですよね。
川嶋:やっぱり繋がっているんですよ。僕がサバスやオジー、悪魔的、オカルト的要素
を持ったバンドが好きなのも、原点に『あなたの知らない世界』とかがあるからだとしか思えないんです。
冠:僕のバンドにも「あなたの知らない世界」という曲がありますからね。『あなたの知らない世界』という番組は日本のメタル・ファンに確実に影響を与えてますね。
川嶋:70年代って、まだ戦後だったんですよね。第二次世界大戦の影がまだあった。心霊写真とかも兵隊が写っていたりと、まだ日本にも暗い部分があったし、今とはまったく違いますよね。雪男とか妖精の写真とか、ある種のファンタジーが残っていて、それがヘヴィメタルの世界に入っていくきっかけにもなっていると思うんです。
冠:謎なものに対してずっと興味をそそられていましたね。ネットもなかったあの頃はある種想像を掻き立てるいい時代だったかもしれないですね。
自分の歌詞は自分が本気で思っていないことは書けない。そういう意味では、メタルっぽいメタルの歌詞は僕は書けないですよ(冠徹弥)
川嶋:冠さんの歌詞についても伺いたいのですが、「ヘッドバンギン謝罪行脚」は会社勤めの話ですよね?
冠:あの曲は、サラリーマンで、子供も小さい同年代の友達と飲みに行ったときの話が元で、真面目に働いて、時には頭も下げてっていうのがすごくカッコいいと思えたんですよ。昔はサラリーマンなんてと思っていましたけど、僕よりその友達の生き方の方がよっぽどカッコ良かった。それがきっかけですね。
川嶋:「俺なりのペインキラー」も興味深かったです。これは僕も思うんですけど、歌詞で触れているように、なんでテレビで流行っているギャグとかをマネすると、まわりは「面白い!」とか言って持てはやすんでしょうね。理解できないし、気持ち悪い。
冠:そうでしょ~! これはキャバクラでの実体験ですけど、芸人のギャグをマネするヤツがいて、それを見てゲラゲラ笑う。何がおもろいねん!って感じですよ。
川嶋:だから一回女の子に聞いたことがあるんですよ。「本当に面白いと思ってるの?」って。そうしたら「面白いわけないじゃん」って言うんですよ。コワッ!と思いましたね。
冠:コワッ! ただ、そういうヤツの方がちやほやされますし、それに対して「なんでやねん」っていうのが「俺なりのペインキラー」です。僕の話は受けなくて「何か歌って!」って言われたからジューダス・プリーストの「ペインキラー」を歌ったのにドン引きされるという……。
川嶋:メタル好きにはあるあるネタですね。「パーティーソング」もそうで、僕もパーティーとかが大っ嫌いなんですよ。
冠:気が合いますね~(笑)。あの曲で共感してもらえるとは思っていなかったですから。
川嶋:でもメタル好きにはあるあるだと思うんですよ。こんな所で時間を無駄にするぐらいだったら家に帰って好きなCDでも聴いていたいって、これまで何度思ったことか。
冠:リア充ではない、オタク的な人に味方する歌ですから。ただ、招待されたときは行ってみようとは思っているんですよ。行く気はあったんですけど、やっぱり面白くない(笑)。メタル・ファンあるあるですね。……意識してなかったですけど、僕の歌詞はそういう傾向があるのか。もうひとつ、雑草魂というか、「なにくそ!」っていう気持ちや普通の人の目線っていうのは、ずっとあると思うんですよね。
川嶋:「民よ」などはそうですね。社会派の歌詞ですし。ヘヴィメタルは、メタリカの『Master of Puppets』以前は悪魔だセックスだって歌詞ばかりで、社会的なメッセージはパンクの方があったわけですが……。
冠:どっちもあるにはあるんです。バカみたいなテーマで詞を書くこともありますし、普通に社会に対しての鬱憤や葛藤やムカつくことを詞にすることもある。ただ、自分の歌詞は自分が本気で思っていないことは書けないんです。昔は「お姉ちゃんがどうたら」みたいな歌詞も書いてみようと思ったんですけど、どうにも違う。「パーティーソング」だってパーティーが嫌いな人間の歌ですしね。モトリー・クルーとかはパーティーが好きじゃないですか。「オールナイト!」なんて歌われても、徹夜はしんどいですもん(笑)。そういう意味では、メタルっぽいメタルの歌詞は、僕は書けないですよ。
川嶋:W.A.S.P.の「I Wanna Be Somebody」は「サラリーマンなんかにはなりたくない」って内容ですけど……。
冠:「ヘッドバンギン謝罪行脚」はサラリーマンはカッコいい、戦士だっていう歌ですからね。それが僕の本心ですし、共感を得る時もあればメタルっぽくないと言われることもよくあります。僕のライヴを観に来てくれるファンの中でも、音だけ求めて歌詞は気にしないっていう人もいますからね。
川嶋:英語の歌だと意味がわからないからっていうのはあるでしょうけど、日本語の詞だったら意味やイメージが入ってきますよね。それでも歌詞は気にならないんですかね。
冠:ヘヴィメタルに歌詞は求めないっていう人もいるんですよ。まあ、僕も『奪冠』という新しいアルバムでは、「ライヴは好きに盛り上がって、歌詞は家に帰ってじっくり読んでくれ」っていうメッセージの曲を書いたりしていますけど、THE冠は歌詞やろ!って思っています。
川嶋:「花占い」のメリケンサックとメルヘンチックみたいに、語感とかもすごく練られていますよね。
冠:そうなんですよ。何回も書き直したり、もっと良い言葉がないか考えたりしていますんで、気づいてもらいたいんですよね。
――先ほどのメタルっぽい歌詞という点では、悪魔やドラゴンなどはよく出て来るキーワードですけど、そういうのも冠さんご自身にとってはちょっと違うものですか?
冠:「何で言うたんや」っていう曲では鬼とか生贄のヤギなんてことを歌っていますけど、そのあとに「そんなの全然思いません」って書いていますからね(笑)。
川嶋:そういう意味では悪魔って日本人にはちょっと遠いですよね。日本人だと中二病感が出てしまいますけど、そこが欧米人は違う。というのも、キリスト教の世界では世の中の決まりはすべて神様が決めていて、そういう中で子供の頃から育ってきている。結局、悪魔っていうのは社会や先生、親への反抗の延長線上にあるものだと思うんです。それと、逆に日本人で良かったなと思うのが、例えば「交通事故で身体が半分にちぎれて」みたいな歌詞を母国語で聴いていたら楽しめないんじゃないかってこと。もし母国語だったらちょっと気持ち悪くなるか笑ってしまうかすると思うんです。
冠:そうですよね。日本人だからこそ英語の意味はわからないけど響きだけで楽しむことができますし、日本語で「殺す」や「血みどろ」みたいね歌詞だったらなかなかテレ
ビやラジオでオンエアしてもらえない(笑)。
――さて、最後にヘヴィメタルの歌詞という点で総括したいのですが……。
冠:ライヴに行ったり単に聴いて楽しんだりっていうときは、特に歌詞を気にしなくても良いと思います。ただ、どこかで一回立ち止まって、「何を言っているんやろ?」って歌詞を見てみることがあっても良いと思う。無茶苦茶だったり恐ろしかったり笑えたりするのもあるんだけど、それも含めヘヴィメタルというエンターテインメント。実は生きる上で力になるワードが多く隠されているんです。特に俺の歌詞は。
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PROFILE
冠徹弥 Tetsuya Kanmuri
1971年生まれ、京都府出身。91年にSo What?を結成し、95 年に『So What?』でデビューする。2003年に解散後は自身のソロ・バンドTHE冠を結成し、精力的に活動中。また、テレビやCMのナレーションや舞台俳優としても活躍し、劇団☆新感線の『メタルマクベス』にも出演。
http://www.thekanmuri.jp
川嶋未来 Mirai Kawashima
1970年1月、ブラック・サバスのデビュー・アルバムよりも1か月ほど早く生まれる。エクスペリメンタル・メタル・バンドSIGHのヴォーカル、キーボード、フルート担当として、これまでに11枚のアルバムを発表。主にエクストリーム・メタル系の音楽ライターとして、インタビュー取材、ライナーノーツ執筆、歌詞対訳なども手掛ける。
[email protected]
twitter.com/sighmirai