<東北の本棚>復旧・復興に深く関わる

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臨時災害放送局というメディア

『臨時災害放送局というメディア』

著者
大内 斎之 [著]
出版社
青弓社
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784787234421
発売日
2018/10/29
価格
3,300円(税込)

書籍情報:openBD

<東北の本棚>復旧・復興に深く関わる

[レビュアー] 河北新報

 臨時災害放送局(臨災局)とは、地震や洪水などの大災害の際、被害を軽減するために自治体が設置できる特殊なラジオ局だ。1995年の阪神・淡路大震災後に制度化された。マスメディアが、被災者に詳しい地域情報を提供できなかったことが、誕生のきっかけとなった。
 以後、2000年の有珠山噴火、04年の新潟県中越地震など大災害の都度設置されることになる。特に大きな役割を果たしたのは11年の東日本大震災の後だ。岩手、宮城、福島3県を中心に、茨城県も含めて、計30局が設置された。
 中には被害軽減という目的を超えて5年以上放送を続け、復旧・復興に深く関わる局も出てきた。本書は宮城県山元町の「りんごラジオ」、南相馬市の「南相馬ひばりFM」、福島県富岡町の「おだがいさまFM」の3局に焦点を当て、臨災局とは何なのかを解き明かしていく。
 山元町は、地震と津波で町内外との通信手段を失った。「りんごラジオ」は震災から10日後に開局。町民の協力を得て幅広い情報を提供、町議会生中継なども行った。「ひばりFM」は原発事故で避難が必要となった地域とそれ以外の分断が問題化した南相馬市ならではの編成を行う。専門医が内部被ばくについて町民の質問を受けたり、放射線モニタリング結果を伝えたりする番組を通して、高い信頼を得ていった。
 「おだがいさまFM」は全町避難を受け、避難先の郡山市で開局した異色の臨災局。「富岡町を忘れさせない」ため町の方言、民話を紹介する番組を制作するなど、独自の路線を貫く。
 共通点は放送運営に住民を巻き込み、住民の立場から情報を提供したことだ。復旧・復興に大きく貢献したことが長期化した理由だと、著者は指摘する。元々博士論文として書かれた。綿密な調査に基づいており、記録性は高い。
 著者は1958年東京生まれ。新潟大大学院現代社会文化研究科博士研究員兼非常勤講師。
 青弓社03(3265)8548=3240円。

河北新報
2018年12月16日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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