愛ある「批評」で読み解く 日本代表とMr.Childrenの平成史

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日本代表とMr.Children

『日本代表とMr.Children』

著者
宇野, 維正, 1970-レジー, 1981-
出版社
ソル・メディア
ISBN
9784905349440
価格
1,760円(税込)

書籍情報:openBD

愛ある「批評」で読み解く 日本代表とMr.Childrenの平成史

[レビュアー] 西田藍(アイドル/ライター)

 本書は、サッカー日本代表とMr.Childrenを通して語る平成史ともいえる。誕生と、両者の関わり、そして現在。両業界とメディアの関わり、サッカーと文化人の関わり、音楽とサッカーの関わり。日本サッカーの変化、成長。サッカーもミスチルも、追っていても、追っていなくても、その時代の空気を思い出しつつ読み進められる。海外サッカー専門誌「フットボリスタ」の出版元から出ていることもあり、内容は濃密だ。物心ついたときからJポップもJリーグも存在していた、その肌感覚は、極めて近いものがあると思った。そして実際、両者の関係は深いのだ。

 Jリーグがスタートしたのは1993年春。開幕と同時に一気にブームが起こった。ドラマ『同窓会』の主題歌となり一気に知られるようになったMr.Childrenの4作目のシングル「CROSS ROAD」がリリースされたのは同年秋。ほぼ同時期に「国民的存在」への道を歩き始めたと言える。

 98年、日本代表はワールドカップ本戦に初出場した。その時期から、Mr.Childrenとサッカーの縁が深まっていく。特に、フロントマンの桜井和寿はかなりのサッカー好きで、サッカー関係者とも交流が多く、ピッチの上でもプレイを続けてきた。サッカーをプレイしている間は、普通の自分でいられるのだともインタビューで語っている。国民的な存在になっても、彼の歌から「普通の人の視点」が失われることはなかったのだ。

 長谷部誠は、有名なMr.Childrenファンだが、彼らの世代を本書では「ミスチル世代」と呼んでいる。中高生時、ミスチルが流行していた世代だ。マスメディアの影響を大きく受けた、最後の世代とも言える。しかし、音楽もサッカーも、両業界は批評の場を失っていく。誹謗中傷と批判を同列に扱うような社会のムードの変化があるというが、本書はそれでも愛ある「批判」、そして「批評」をするのだという熱意を感じた。「外からしか言えないこと」はたしかにある。

新潮社 週刊新潮
2018年12月20日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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