「極限状態のなかの、一般人目線のミステリーを書きたかった」――『神のダイスを見上げて』刊行記念インタビュー 知念実希人
インタビュー
『神のダイスを見上げて = Look up at God's Dice』
- 著者
- 知念, 実希人, 1978-
- 出版社
- 光文社
- ISBN
- 9784334912543
- 価格
- 1,430円(税込)
書籍情報:openBD
「極限状態のなかの、一般人目線のミステリーを書きたかった」
[文] 光文社
2018年11月に「広島×光文社 本屋さんへ行こう!キャンペーン」の目玉企画として広島県内の書店のみにて先行発売された『神のダイスを見上げて』。いよいよ12月に全国発売となりました。巨大小惑星ダイスが地球に接近中、あと5日で人類は滅亡するかもしれない――というなかで、姉を殺された男子高校生が、自らの手で復讐を遂げようと犯人捜しに暴走するというタイムリミット・ミステリー。その創作秘話をうかがいました。
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――今回の作品は、巨大小惑星が地球に接近するなかで起こる殺人事件の謎を追う、というパニックサスペンス的テーマですが、構想はいつごろからあったのですか?
知念 実はけっこう前に書いた作品で、デビューして2年目、今から4、5年前に原型になるような物語を書いたんです。とにかく数を書いて、いろんなジャンルにチャレンジしようとしていた時期でした。
――このような舞台設定はどのようにして思いついたのですか?
知念 単なる殺人事件の謎を追うのではなく、ある種の極限状態での人間心理を描き、そのなかで、一般人の目線でミステリーが書けないかな、というのが思いついたきっかけでしたね。
――だいぶ改稿されたということですが、物語の大枠、筋なども変わったのでしょうか?
知念 設定、シチュエーションは変わっていませんが、犯人を変えるくらいの大きな変更はしましたね。事件の真相、登場人物の動きも変わりましたし、新たな登場人物も加えました。
――昔のご自身が書かれた文章を改めてご覧になって、いかがでしたか?
知念 まだデビューして2年目に書いたものだったので、だいぶ甘くてアマチュアの文章でしたね。冗長でシャープさが足りないし、全然ダメでした。読んでいて恥ずかしかったです。
――改稿にはどれくらいの期間がかかりましたか?
知念 ほかの作品の執筆と並行して改稿していた、ということもありますが、1カ月半~2カ月くらいはかかりました。
――新作を一から考えるのとは違うご苦労があったかと思いますが、一番大変だったのはどのような部分でしょうか。
知念 読み返してみると、人物の動きにまとまりがなかったんですね。一人一人の人間の顔が見えないというか。物語のための駒のような存在になってしまっていて。なので、登場人物を作り直すような作業が必要になって、それが大変でしたね。行動、言動をそれぞれの人物らしいものにしていくという感じで、だいぶ手間がかかりました。改稿だからもう少し楽にできるかな? と思っていましたが、まったく楽じゃなかったですね(笑)。でも結果、物語が生き生きとして、とても納得のいく作品になりました。
――今回は光文社の広島キャンペーンにあわせて、広島県で限定カバーにて先行発売、トークイベント、書店まわりを行いました。ご出身の福ミス含め、広島とはなじみ深いと思いますが、知念さんにとって広島はどのような場所ですか?
知念 デビューも広島県福山市の賞ですし、広島を舞台に使った『崩れる脳を抱きしめて』(実業之日本社)で広島本大賞もいただきました。広島の書店員さんたちは本当に熱い方たちが多く、情熱を感じますね。年に1、2回は必ず行きますし、もう一つの故郷のような存在になってきましたね。当初、光文社からの次作は2019年の1月ごろから執筆を始めるスケジュールで予定していたのですが、あるとき編集部から「お願いがある」と言われまして。深刻な顔で「半年予定を早めてもらえませんか」と言われ、正直すべてスケジュールは詰まっていたので、「無理です」とお断りしたんですが、「実は、広島キャンペーンを行うので、この新作を目玉企画にしたいんです」と。わけのわからない無茶な依頼だったのですが(笑)、広島かぁ、広島のためだったら断れないな……と思いまして、無理やりスケジュールを空けて引き受けた、という経緯です。なんとかならないはずだったけど、なんとかなりましたね(笑)。
――本当にありがとうございます(笑)。今回に限らず、とにかく多くの書店さんに足を運ばれている印象です。実際に書店に行かれて、書店員さんたちとお話しされるなかで、なにか感じること、思うことなどはありますか。
知念 想像以上に本を読んでおられる書店員さんが本当に多いな、と感じます。「売れるから売る」、のではなく「売りたいから売ろう」としてくれている書店さんが多く、そういう書店の本棚は見ていてわかりますよね。単なる商売としてではなく、本を好きで売ってくれている。そう感じられるのが一番うれしいですね。
――これまで行かれた書店まわりのなかで、特に印象深いお店、思い出などありましたら教えてください。
知念 ほかの版元さんですが、鳥取に行ったときに空港を間違えたことがあります(笑)。新幹線の中に、サインのときに捺す落款を忘れてしまい、落款だけ博多まで行ってしまったこともありました(笑)。どこの書店さんでも歓迎していただきますが、福岡の紀伊國屋書店さんで手作りの素晴らしいディスプレイを飾ってくださっているのを見たときは感動しましたね。書店さんの熱意を感じました。
――読者に向けて、メッセージをお願いします!
知念 たくさんの方に今後も続けて応援していただけるように、コンスタントに作品を出していきますので、どうぞよろしくお願いいたします!
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知念実希人(ちねん・みきと)
1978年、沖縄県生まれ。東京慈恵会医科大学卒、日本内科学会認定医。2011年「レゾン・デートル」で第4回島田荘司選ばらのまち福山ミステリー文学新人賞受賞。’12年、同作を改題した『誰がための刃 レゾンデートル』(講談社)でデビュー。「天久鷹央」シリーズ(新潮文庫nex)で人気に。’15年『仮面病棟』(実業之日本社文庫)で啓文堂書店文庫大賞を受賞しベストセラーに。’18年『崩れる脳を抱きしめて』(実業之日本社)が本屋大賞8位にランクイン。
他の著書に『優しい死神の飼い方』『黒猫の小夜曲』『屋上のテロリスト』(小社)、『祈りのカルテ』(KADOKAWA)、『ひとつむぎの手』(新潮社)などがある。今もっとも新作が期待されるミステリー作家の一人。