『町の形見』 柳美里著

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町の形見

『町の形見』

著者
柳 美里 [著]
出版社
河出書房新社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784309027593
発売日
2018/11/22
価格
2,160円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『町の形見』 柳美里著

[レビュアー] 土方正志(出版社「荒蝦夷」代表)

風化に抗う被災の記憶

 柳美里の戯曲集である。ご存知の読者も多いかと思うが、著者は福島第一原子力発電所事故の旧警戒区域である南相馬市小高区に移住、書店「フルハウス」と小劇場「La MaMa ODAKA」を営む。本書収録の三作品も東日本大震災と福島第一原発事故をテーマとした<震災戯曲>である。テーマとはしながらも、著者の目線はあくまで人と地域に寄り添って大上段ではない。共に暮らす者としての目線が、鎮魂と哀惜と、そしておそらくは怒りに満ちる。

 高校生たちを主人公とした「静物画2018」は過去作を被災地を舞台に書き換えた作品で、著者の演劇ユニット<青春五月党>復活公演第一弾として福島県ふたば未来学園高校演劇部によって上演された。「窓の外の結婚式」はNHK「福島発ラジオ深夜便」放送の朗読劇である。

 復活公演第二弾の表題作「町の形見」の舞台は私も小高で観(み)た。どうやら震災をテーマに演劇を作り上げようとしている若い役者たちが被災者に体験を聞く、そんな劇中劇のような構成だ。被災者役は現実の南相馬の被災者、おじいちゃんやおばあちゃんである。若い役者たちに自らの人生を語り、そして「あの日」と災後の日々を語る。舞台はまるで公開インタビューのごとく、セリフなのか本人の素の語りなのか、若い役者たちの反応も演技なのかどうなのか、地震と津波と原発事故が語りにスリリングに交錯して、被災者のひとりとして衝撃的な観劇体験となった。風化がいわれる。だが、あの東日本大震災を直(じか)に体験した者に風化はない。体内に沈潜した被災の記憶が、時折どっと甦(よみがえ)る。その瞬間が、舞台にもあり、本書にもある。

 戯曲集を評しているわけだが、ここはやはりまずは本書を読んで、そして機会があれば実際に舞台をご覧いただきたい。この災害列島に暮らす限り、風化はそのままあなたの生と死に繋(つな)がる。本書のように震災を描いて、文学は風化に抗(あらが)う力を持つと信じたい。

 ◇ゆう・みり=1968年生まれ。作家。著書に『家族シネマ』『フルハウス』『ゴールドラッシュ』など。

 河出書房新社 2000円

読売新聞
2018年12月16日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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