『公文書問題と日本の病理』
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<東北の本棚>法改正や人材育成提言
[レビュアー] 河北新報
2011年4月に公文書管理法が施行された後も、森友・加計学園問題に絡む文書の廃棄や改ざん、陸上自衛隊PKO部隊の日誌隠蔽(いんぺい)問題が噴出した。公文書問題を先駆的に追い掛けたジャーナリストが病根を探り、「民主主義の根幹」とされる記録管理の在り方を提起した。
法は文書の作成から保存、期限が満了した文書を選別して公文書館に移管する統一ルールを定めたが、「よちよち歩き」の状態だ。50年以上前に法制化した欧米に比べて大幅に遅れている。法施行の直前に発生した東日本大震災の復興過程で政府が開いた重要会議の議事録が作られず、公務員の意識は法に追い付いていなかった。
本書は森友・加計学園問題などの経緯を分析。「公務員を指導する政府に、行政情報は俺たちのものという意識が残っている」と批判する。
一方、地方では災害の増加とコミュニティーの弱体化に伴い、公文書に限らず幅広い記録を後世に伝える活動が始まっている。1995年、阪神大震災の被災地では市民がボランティアの記録などを収集。地震災害が相次いだ宮城県では学者らが宮城歴史資料保存ネットワークを立ち上げ、同様の組織が全国に広がった。
国民自身が行政任せにせず記録に基づいてさまざまな政策を検証し、方向性を決める自覚が必要-。著者の指摘が重く響く。情報公開法を改正して公文書の範囲を拡大することや電子文書の保存、文書管理を担う専門職の育成・採用を提言する。
著者は1950年栃木県生まれ。日本経済新聞社編集委員などを務め15年に退社。著書に「日本の公文書」など。
平凡社03(3230)6573=864円。