残酷な世界にひとすじの光が射す短編集
[レビュアー] 円堂都司昭(文芸評論家)
長岡弘樹は短編小説の名手だと、あらためて思わせてくれる作品集が『救済 SAVE』である。
震災を生き延びた男が奇妙な経験をさせられる「三色の貌(かたち)」。不始末を犯した弟分を兄貴分が始末しなければならない「最期の晩餐」。元警察官が見事な証拠隠滅を行う「ガラスの向こう側」。介護職の青年が施設長の依頼に応えようとする「空目虫(そらめむし)」。窃盗犯が同じ家に再び侵入する「焦げた食パン」。小学六年生男子の一風変わった友だちが放火容疑をかけられる「夏の終わりの時間割」。
収録された作品は、登場人物の職業、物語の舞台や状況などがいずれも違っており、シリーズものではない。だが、一冊にまとまったものを読むと、ゆるやかな統一性がうかがえる。本書のテーマはタイトル通り、救いだ。自身ではどうすることもできない境遇や体を抱えた人物が、それぞれの短編に登場し、彼らの属性が出来事のありかたにかかわっている。
仮に属性をトリックに利用するだけならば、後味の悪い読みものになったかもしれない。本人にはどうすることもできないことをネタにするのは、残酷なことなのだから。しかし、作者はそれでは終わらせない。いずれの物語の結末でも、意外な真相が明かされるとともに、がんじがらめの属性を生きる人物にまつわる情が浮かび上がるようになっている。不幸ななかにも救いが感じられる展開なのだ。だから、心地いい余韻が残る。
長岡弘樹は、意外性を演出するための計算と、人情味が感じられる心理、動機のバランスをとるのが上手い。冷静さとあたたかみの両立が、彼を名手にしたのである。