昭和四十五年の北海道が舞台 小学四年生男子の“家族小説”
[レビュアー] 豊崎由美(書評家・ライター)
「二次元少年大好き人間全員集合!」と声を上げたくなる小説が、昭和四十五年を時代背景とした朝倉かすみの『ぼくは朝日』だ。朝日は、北海道の小樽で、バスの運転手をしているお父さん、信用組合に勤めている十歳年上のお姉ちゃんの夕日と三人で暮らしている。母親は自分を産んだ時に亡くなっていて、だから朝日は写真の中のお母さんしか知らない。
でも、元気いっぱいの小学四年生男子だ。たて笛で「ペール・ギュント」第一組曲第一曲「朝」の出だしをはじめ、「笑点」のテーマソングなんかを吹いて上機嫌。ランドセルは古びていたほうがいいからと乱暴に扱ってご満悦。誕生日に大きなU字型磁石をもらって大喜び。お姉ちゃんから「飼ってもいいよ」とお許しを得た仔猫のくろちゃんと仲良し。
ルックスがいいわけじゃない。勉強やスポーツがよくできるわけじゃない。クラスのリーダーでもない。いたって普通の男子だ。でも―。自分と友達の富樫くんとでおかしな状態にしてしまった新品のカラーテレビを、あっという間に直してくれて、なのに〈腰の低いアリマさん〉のままでいる電器屋の主人をカッコいいと思う。布団の中で声を押し殺して泣き、以来、お腹減ってるみたいな声しか出さなくなってしまったお姉ちゃんに、何か言ってあげたいんだけど言葉が見つからなくて、ただただ心配する。そうしたエピソードが連なっていくにつれ、子供らしさを残したまま、懐の深さをのぞかせる朝日のことを好きにならずにはいられなくなるのだ。
最後の章では、お姉ちゃんを励まそうとした朝日の言動がきっかけとなって、元気をなくした理由が明らかになるというドラマチックな展開が用意されている。北海道弁を駆使した語りも見事。平成最後の年の最後の月に、この昭和ムード満載の少年小説にして家族小説を是非。こたつに入らなくても気持ちがポッカポカに温まります。