ブルースを通奏低音に 黒人捜査官が向き合う殺人事件

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ブルーバード、ブルーバード

『ブルーバード、ブルーバード』

著者
アッティカ・ロック [著]/高山 真由美 [訳]
出版社
早川書房
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784150019389
発売日
2018/12/05
価格
1,980円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

ブルースを通奏低音に 黒人捜査官が向き合う殺人事件

[レビュアー] 香山二三郎(コラムニスト)

 テキサス州の田舎町で黒人の男性弁護士と地元の白人女性の死体が相次いで見つかり、黒人のテキサス・レンジャーが調査に赴く――本書の内容紹介を読んで思い浮かべたのは、ジョン・ボールの一九六〇年代の名作『夜の熱気の中で』だった。

 列車で移動中の黒人捜査官が南部の田舎町で途中下車せざるを得なくなり、殺人捜査にも関わる羽目に。人種差別のはびこる場所でしかし、主人公は事件を解決に導き、彼を厳しい眼で見ていた地元の署長も一目置くが、本書を読んでいたら、「〈夜の大捜査線〉みたいな映画の話とはちがうんだ」という文章に出くわした。『夜の熱気の中で』の映画化作品のことである。

 本書で描かれる事件は、まず白人の女が殺され、その報復に黒人の男が殺されるという通常の場合と順序が異なる。それが謎といえば謎だが、驚くような仕掛けが凝らされているわけではない。しかし主人公ダレン・マシューズの造形からして彫りが深い。黒人初のレンジャーを伯父に持つ名家の出なのだが、家族の間には溝があり、彼自身、夫婦関係がうまくいっていない。おまけに自家の農場管理人が巻き込まれた殺人事件に関わり、停職処分の身だ。

 ダレンが赴く田舎町も黒人が集う女主人のカフェと白人の大地主の家が道を挟んで向かい合い、何とも微妙な雰囲気。ダレンは地元の酒場で被害者男性の妻と知り合い、調査に本腰を入れ始める。人種差別的な犯罪組織の影もちらつき、身の危険にさらされつつも、愛憎が複雑に絡まった人間関係の闇を掘り起こしていくダレン。それは確かに口当たりのいい映画の世界とはワケが違う。

 全編にちりばめられたブルースはドラマの通奏低音でもあり、音楽ファンならずとも目を離せない。テキサス・レンジャーの誇りや意気込みもビシビシ伝わってくるし、英米のミステリー主要三賞受賞も納得、読み応え充分の捜査ミステリーだ。

新潮社 週刊新潮
2018年12月27日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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