• やぶれかぶれ青春記・大阪万博奮闘記
  • 力士探偵シャーロック山
  • ダンデライオン
  • トム・ハザードの止まらない時間
  • トラペジウム

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大森望「私が選んだベスト5」

[レビュアー] 大森望(翻訳家・評論家)

 2025年の大阪万博開催が決まったのは11月24日だが、それを見越して(?)、10月に文庫オリジナルで出たのが、小松左京『やぶれかぶれ青春記・大阪万博奮闘記』。1970年の大阪万博でテーマ展示サブプロデューサーを務めた小松左京が、万博に至る道のりとその舞台裏を赤裸々に語る「ニッポン・七〇年代前夜」と「万国博はもうはじまっている」を収める(ともに文庫初収録)。もともと勝手連のように始まった知的ボランティア組織“万国博を考える会”と、役所(および日本万国博覧会協会)との軋轢。「“お国のため”に働くなんて、もうまっぴら」と広言するSF作家が、なぜ、どんなふうに万博に協力したのか。ヴィヴィッドな書きっぷりは、半世紀後のいま読んでも抜群に面白い。

 同じく文庫オリジナルの田中啓文『力士探偵シャーロック山』は、三度のちゃんこより本格ミステリが好きな小結・斜麓山(しゃろくやま)の活躍(?)を付け人の輪斗山(わとさん)が語る連作集。巡業先での“化粧まわしの呪い”をめぐる「まだらのまわし」、人面魚ならぬ犬面魚騒動の真相を暴く「バスターミナル池の犬」など、爆笑の全4話。

 中田永一『ダンデライオン』は、31歳の主人公の意識が11歳の自分と1日だけ入れ替わる、緻密な時間SFミステリ。その1日を使って愛する人を救うべく奔走するが……。対するマット・ヘイグ『トム・ハザードの止まらない時間』は、437歳の男が主人公(外見は40歳くらい)。16世紀末からの長い長い人生を振り返りつつ、同じ長命者たちの秘密組織との関わりを語りはじめる。

 高山一実『トラペジウム』は乃木坂46の中心メンバーの鮮やかなデビュー長編。アイドルを夢見る房総半島(推定)の女子高生の遠大な計画が瑞々しくユーモラスに描かれる。

新潮社 週刊新潮
2019年1月3日・10日新年特大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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