[本の森 ホラー・ミステリ]『東京輪舞(ロンド)』月村了衛/『人間狩り』犬塚理人/『アリバイ崩し承ります』大山誠一郎

レビュー

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書籍情報:版元ドットコム

[本の森 ホラー・ミステリ]『東京輪舞(ロンド)』月村了衛/『人間狩り』犬塚理人/『アリバイ崩し承ります』大山誠一郎

[レビュアー] 村上貴史(書評家)

 月村了衛『東京輪舞(ロンド)』(小学館)の手応えが好きだ。小説の濃さ、熱さが、本を持ち、ページをめくるその手にしっかりと伝わってくる。月村了衛という作家の力量を体感できる一冊だ。

 物語の第一声は、時の総理大臣、田中角栄によるものである。角栄邸の警備中に不審者と格闘して負傷した巡査――本書の主人公である砂田修作――を見舞う言葉だった。砂田はその後、警視庁公安部外事第一課に配属され、ロッキード、東芝COCOM、ソ連崩壊、地下鉄サリン、警察庁長官狙撃、金正男訪日といった昭和から平成にかけての大事件に取り組みながら、警察の一員としての人生を歩んでいく。その過程で彼は、こうした大事件に加え、その背後で暗躍するKGBなどの諜報機関との闘いや、真相究明より警察内部での権力闘争を優先する連中との闘いを経験する。そのドロドロとしてヒリヒリとした緊張感がなんとも重く読み手を圧倒する。また、読み手側もよく知る大事件が題材であるだけに、その裏側を垣間見る刺激も強烈だ。表に出た情報にどれだけの知られざる真実が加味され、そこにどれだけの著者の創作が加わっているのかは不明だが、本書がとことんスリリングな小説であることは間違いない。そのうえで、だ。著者はその小説に、恋愛というもう一つの旋律を織り込んでいる。ラストシーンの輪舞のなんと愛らしく切ないことか。素晴らしい一冊である。

 犬塚理人『人間狩り』(KADOKAWA)は、第三八回横溝正史ミステリ大賞の優秀賞受賞作。
 警視庁警務部人事第一課監察係の白石英季は、二〇年前の捜査資料――一四歳の少年が少女を殺害し眼球をくりぬいた際に撮影した映像だ――がネット上で売りに出された事件を担当することになった。当時の捜査関係者は約八〇名。まずは全員を映像持ち出しの嫌疑対象として白石たちが捜査を進めていたころ、市中では、また別の動きが生じていた。悪事を働く人間をネットに晒して炎上させる〈自警団〉の活動が活発化してきたのだ……。この二つのストーリーはいずれも先の読めない展開で進んでいて剌激に満ちているし、その両者が後半で絡み合っていく展開も実に巧みに造られていて、読者をたっぷりと引きずり回してくれる。なお、前半で白石が姪を心配して彼女のスマホに行動確認アプリを仕込む行為に不自然さを覚えたが、読了時には、人それぞれの過ちとその後の挽回を本書が描いていることを知り、このエピソードにも納得。よく作られているのである。

 大山誠一郎『アリバイ崩し承ります』(実業之日本社)は、アリバイ崩しを題材とする七作を収録した連作短篇集。本質的に異なる七つの着想に感嘆し、真相の衝撃を七度堪能した。大満足の一冊。

新潮社 小説新潮
2018年12月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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