繊細なタッチで紡がれた、切なくも優しい物語
[レビュアー] 明文堂書店金沢野々市店(書店員)
酒浸りの母親から暴力を受けるような環境で育った母子家庭の青年、ジョー・タルバート。そんな母親のもとで自閉症の弟と暮らしていたジョーは、大学への編入を機になかば家出のように実家を離れ、現在はひとり暮らしをしていた。そんな彼は大学の授業で身近な人物の伝記を執筆することになったのだが、母親については語りたくなく、祖父母はもう亡くなっていた。取材する相手を探すために赴いた介護施設で、膵臓がんで余命幾許もないために刑務所から仮釈放された殺人犯がそこにいることを知り、ジョーは彼のインタビューを望む。彼の話を聞き、彼の事件を調べる内に、意外な真実が明らかになっていく。
過去のある出来事が自身の人生に深い翳を落とす。そんな罪悪感を抱えた二人の邂逅が互いの抱える闇に一筋の光を与える。重たいテーマを扱ってはいますが、青春小説の要素も色濃く、爽やかな読後感を残します。主人公には短気で失礼な面があり、個人的には好ましさを感じつつも好きになれないところがあったのですが、ただ物語の雰囲気にはとても合っているように感じました。繊細なタッチで紡がれた、切なくも優しい物語です。