生きづらいこの時代を「歩くこと」で乗り越えよ! 累計14万部突破の大人気シリーズ第4弾

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病気の9割は歩くだけで治る! PART2 体と心の病に効く最強の治療法

『病気の9割は歩くだけで治る! PART2 体と心の病に効く最強の治療法』

著者
長尾和宏 [著]
出版社
山と渓谷社
ISBN
9784635490375
発売日
2018/11/17
価格
1,320円(税込)

生きづらいこの時代を「歩くこと」で乗り越えよ! 累計14万部突破の大人気シリーズ第4弾

[レビュアー] 相澤マイコ(ライター)

 歩くことは体にいいと言われて久しい。いつでもすぐに始められ、基本的には道具もいらない。体にストレスとなるほど激しくなく、天候や体調に合わせて自在に調節できる運動として認知されている、ウォーキングという言葉も浸透し、最近では歩くことでポイントがもらえる、保険料がキャッシュバックされる、寄付などの社会貢献につながるといった取り組みも登場している。

 それにしても「病気の9割は歩くだけで治る!」というのはちょっと言い過ぎでは? と思うが、これは尼崎でクリニックを営む著者が「町医者として日々感じる当たり前のこと」で、更にそれを裏付けるエビデンスも次々出ていると言うのだから驚きだ。

 本作は累計14万部突破の「歩く本」シリーズの第四弾。シリーズを通読していない人でも大丈夫なように、まずは体の仕組みに歩くことがどのような効果をもたらすかがまとめて紹介されている。酸化や糖化、腸内環境やホルモンバランスなどのおなじみのワードから、知っていそうで実はよく知らなかった体の機能と、歩くことと健康とのつながりが見えてくる。漠然とした「なんとなく体に良さそう」が、より具体的なイメージに変わる。

 更に、著者が推奨する歩き方は「量より質」「あくまでも自分にあった」「楽しめる」ものであることだ。よく言われる「一日1万歩」が達成できず挫折した人には、「一日10分を朝昼晩(3回)」というハードルはかなりやさしく感じられるだろう。ただ外を歩くだけではなく、運動効果を高める階段歩きやインターバル速歩、体に負担の軽い水中ウォーキングやポールウォークに加え、脳の働きを活発にする「ながら歩き」に歩行禅、更には要介護の人でもできる室内歩行まで、人生のあらゆる場面で実践可能な歩き方が満載だ。

 たしかに健康にいいとは言え、なぜ著者はこれほど歩くことを勧めるのだろう。その影には深刻な二つのテーマがある。メンタルダウンによるうつと自殺、「病気になればすぐ薬」という、薬原理主義的な現行医療の問題点だ。

 もともと真面目で几帳面な上、NOと言えない「うつ気質」の日本人。ピーク時の3万人を切ったとはいえ、2017年の厚生労働省の自殺対策白書によれば、自殺死亡率は世界で6番目に高く、先進国では最悪レベルだ。もっとも、著者は町医者として「直接自殺をしないまでも酒浸りで自暴自棄になり“緩やかな自殺”を招いている人は多い」と実感する。

 他方、メディアで取り上げられた情報ばかりを鵜呑みにし、真面目に励行しすぎて逆に体調を崩したり、具合が悪くなると途端に不安になって医者に丸投げ、という主体性の無さが、現在の薬漬け医療を許してしまっていると警鐘を鳴らす。

 著者はこの問題にも歩くことが最善の解決策だと語る。人類は、進化の過程で直立二足歩行をすることを選んだ。そのおかげで両手が使えるようになり、それが今の人類の発展につながった。ところが、今や私たちは先行き不透明な社会の中で不安と混乱に流され続け、老後を含めた明るい未来を思い描くことができない。

 ひたすらに目と指先だけをせわしなく動かし、脳に休みなく情報を送り続ける現代の生活はあまりに部分的で、体が全体で機能し、バランスよく助け合っているということを忘れさせる。生活習慣病を始めとするさまざまな現代病は、もしかすると体からの「動いてくれ」「全身をもっと使ってくれ」というシグナルなのかもしれない。そして、そのバランスを最も手軽に簡単に取り戻すことができる運動こそが、著者の言う「歩く」ことなのだ。

 更に著者は言う。「外を歩けないなら家の中を歩けばいい。足が動かないなら手の力で歩けばいい。寝たきりになったら寝たまま歩けばいい。生きている限り、動くことを諦めないで」と。

 それは自分の力で動くこと、動けることが、何より自信を取り戻させてくれるからに他ならない。地に足をつけて歩くこと、文字通り地道な日々の歩み――遠い祖先が試行錯誤の末に続けてきたであろうこの行為――が、体を無視し、忘れて生きる今の私たちにとって希望になりうるのかも知れない。

 足の裏に大地を感じ、歩むということ以上に、確かな実感はない。そしてその実感は、心身の健康に必要なものをもたらし、気づかせてくれる行為なのだ。寿命が長くなったとは言え、長く生きられるのが嬉しいとはなかなか思いづらいこの時代に、改めて「歩く」ことの意味を思った一冊だった。

山と溪谷社
2019年1月15日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

山と溪谷社

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