『中年男ルネッサンス』
書籍情報:openBD
一発屋芸人×社会学者が語り尽くす“男の40代”
[レビュアー] 吉田豪(プロ書評家、プロインタビュアー、ライター)
男は40代になると病みやすいというのはボクも本にしたテーマなんだが、そこに作家としての評価も高い髭男爵・山田ルイ53世が参入。
「もう若くはないが、残された時間も短くはない。終わってないが、終わっている……非常にややこしいポジション。RPGゲームで言えば、取り忘れたアイテム、割っていない壺、話しかけていない村人はいるかもしれぬが、一応クリアはした。さて、これ以上、一体何をどうしたものか。大袈裟に言えば、特にやることはないが、安穏としたまま、終点の棺桶まで辿り着けるほどのアドバンテージもない……そんな状況」
まえがき部分はさすがの筆力で読ませるんだが、社会学者・田中俊之との対談部分では、良くも悪くも男爵の貴族らしいジェントルさが目立つ感じ。なので、面白いのは得意分野である一発屋絡みの発言だった。
「“一発屋”は、一般的に地方営業が多いんです。その場合、一度お茶の間の知名度を極限まで高めたことによって“元売れっ子”という肩書を手に入れているから、『呼べば集客が見込めますよ』という期待値で仕事を呼び込んでいる部分がある。いわば、その貯金を切り崩していくのが“一発屋”のビジネスモデル」
そして、地方営業ではヤジを飛ばされがちらしいんだが、「ヤジが“飛んでくる”というくらいですから、ヤジには物理的・心理的な“距離”が必要になってくる」「だったら『接近戦』に持ち込んで、その距離を潰してやればいい」「具体的には、単純にヤジを飛ばしている人を見つけて近づき、対峙してイジるという“物理的なパターン”がひとつ。もうひとつは、ヤジを発している人を見つけたら遠くからでも目を合わせ、話しかけ、しっかりと『あなたですね!』『認識してますよ!』というメッセージを送って、匿名性を無効化する“心理的パターン”」という、観客に当事者意識を持たせるスキル、すごい勉強になりました!