学びの友となる教科書を目指して――『社会保障法』刊行によせて
ぜひ「発展」も読んでほしい
――「発展」がすごく多くなりましたよね。
嵩 そうですね。書きたいけど、本文に入れるのはちょっと、というのは全部「発展」に入れて。ちょうどうまく使わせていただきました。
笠木 学生の方に読んでもらえると面白いと思う。必ずしも議論が難しいから「発展」というわけでもないですよね。論点の性格から、「発展」に位置づけている。
中野 脱線するようなものは全部「発展」に入れるようにしました。
渡邊 知っていたほうが本文の理解に役立つかなという視点もありました。
嵩 誰に読んでほしいかな? 広くみんなに読んでほしい。
中野 院生以上の専門家に限らず学部生の皆さんにも。
嵩 本文は「こういう制度です」という無機的な話がけっこう続いたりするので、「発展」のほうが面白みが出てくるのかなと思います。学生は、むしろ「発展」に興味が湧くと思います。
中野 社会保障法のゼミ生なら読んで欲しいですね。
嵩 ぜひ読んで欲しいですね。きちっと読んで、もっといろいろな本にもチャレンジしてほしいです。
――学生の方以外でしたらどういう人に読んでほしいですか?
笠木 判例、裁判例はけっこう広く、また詳しく紹介していますので、裁判例の動向に関心のある方でしょうか。
渡邊 予備知識がそれほどない一般読者の方にも理解しやすい構成にしているつもりなので、さっとでも読んでもらえれば嬉しいですね。特に「発展」の部分などは現実社会との接点も多いと思うので、興味も持ちやすいのではと思います。
執筆中の苦労……
笠木 編集会議ではお互いに原稿を読み合いましたね。
嵩 われわれ執筆者以外の先生にも読んでもらいました。
笠木 そうですね、複数の方に読んでいただいているので、私が一人で書いた最初の原稿に比べるとかなり読みやすくなっているんじゃないかと思います。わかりづらいところは率直に「わかりづらいです」とコメントを入れてもらって、直しました。
中野 校正時に、編集部からも「意味がわかりません」という突っ込みをいただいたり……。
嵩 そうね。それはありがたかったよね。
中野 書いた本人は先入観を持って読んでいるから、わからない訳ないだろうとか思っちゃう。
笠木 そうとしか読めないと自分では思うのですよね。
中野 必要な箇所は、授業で使う先生が噛み砕いて説明してくださればと思います。
笠木 確かに、ただこの本を読むだけではなく、講義に出て先生の議論を聞きながら勉強していただくのが理想的ではありますね。
中野 毎回、血を吐くような思いで作業をしていました(笑)。寝食を削り、帰りが遅くなって猫に寂しい思いをさせて。
渡邊 今も手に引っ掻き傷があるけどね(笑)。
嵩 心血を注ぎましたね。
中野 まさしく血と涙の結晶。
渡邊 改正が多いと、前に書いたものとの整合性が問題になることもあって、結局、全部書き直さないと駄目だとか。
中野 それはありますね。継ぎ足しているだけだと駄目で。あと、社会福祉は取り扱うジャンルが広いので、必ずしも自分が今まで関心を持っていなかったところまで調べて、自分が勉強してから書かなければいけないというのもけっこうあったので。それは大変だった。
笠木 本当に大変でした。でも勉強になりました。自分が好きなところと、そうでもないところはやっぱりどうしてもあります。日頃、論文を書いたりするときは好きなところを選べるし、判例評釈も、ある程度自分が面白いと思うテーマから選んでいるので。
嵩 自分が今まで全然興味を持っていなかった論点についての論文が多くあったり、こんなにも議論の蓄積があるんだなと思ったりしました。そういう発見があって勉強になったなと思う。ここにもこういう論点があるんだなとか、こういう比較はよく知らなかったなとか、様々なことを発見しました。論文を書くだけだと全体を見られていないですし。
渡邊 ほかの人の原稿を読んで、ああ、確かにこの問題も忘れてはいけないとか、改めて考えたりしましたね。
嵩 そうそう。お互いに読んだりしてね。
笠木 今、自分で何か新しいテーマについて勉強を始める時、皆さんの原稿を手元に持っているので、それを見て、まず、当該論点について何が書いてあるか読んでから着手することにしていますね。
渡邊 そういう意味ではすごく信頼のおける内容ですよね。
中野 福祉の章については、さっきも言ったように、今までいろいろな先生たちがなさってきたことをまとめたものなので。
笠木 既存の膨大な基本書や論文を、かなり丁寧にフォローして教科書の形にまとめた、という本として、一定の利用価値があると思います。