老人と家
[レビュアー] 林操(コラムニスト)
社会問題になる前から空き家について見聞きするたび頭をよぎるのが『老人と海』。苦闘の果てに釣り上げた大物も、港に戻れば骨ばかり……という顛末が、ローンの末に手にした持ち家も、子が別に家を持てばやがて、売れも貸せもしない空き家に……という流れと似てるような気がしてね。
そういう空き家(予備軍も含む)を抱えてる知り合いは親の側にも子の側にも多くいて、空き家問題の広さ深さは実感してきた身ながら、今またヘミングウェイの名作を思い出してるのは、『老いた家 衰えぬ街』を読んだから。
著者の野澤千絵は都市計画の専門家で、2年前に同じ版元から出した『老いる家 崩れる街』は、空き家問題の惨状と原因をデータに基づいて描く“恐怖の書”だった。一方、今回の続編はホラー一辺倒ではなく、解決への道筋まで示す“希望の書”でもある。
提言の対象には国や自治体だけでなく、空き家を残しそうなアナタ、空き家を残されそうなアナタ、そして、すでに残されちゃったアナタも含まれてるゆえ、読んでおいた方がいい。
獲物を鮫に喰われたキューバの老人(と少年)に文豪は誇りを授けて一種の神話に仕立てたけれど、ニッポンで空き家を抱える老人(と子)が見舞われてるのは、持ち家偏重の住宅政策が空き家量産の棄民政策に化けた悲劇。こちらにも何らかの救いをもたらそうとしてるのがこの新書でありまして、まず読むべきは政治屋や役人なんだけどね。