『不意撃ち』 辻原登著

レビュー

4
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不意撃ち

『不意撃ち』

著者
辻原 登 [著]
出版社
河出書房新社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784309027562
発売日
2018/11/07
価格
1,728円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『不意撃ち』 辻原登著

[レビュアー] 宮部みゆき(作家)

日常の見方変える短編

 五篇(へん)を収録した短編集。タイトルどおりの「え!」という展開や結びで驚かせてくれる上に、読後しばらくのあいだ、読む者の日常の見方を変えてしまう力を持った五つの作品だ。悪意の怖さ、愛の優しさ、偶然の皮肉、運命の裏切り。不穏なお話が続く短編集でありながら、読後感はけっして悪くない。

 巻頭の「渡鹿野(わたかの)」は、この地名をご存じの方には内容がピンとくるかもしれない。でも、お話はそのピンときた方向には収まらない。風俗小説のふりをして始まるこの短編を、私は(誤読だろうけれども)心霊ものとして読んだ。主人公が追いかけている風俗嬢ルミは、ある時点からこの世の人ではなくなっているのだ、と。だからあのラストがある。それだと主人公が付き合った女は誰なのか訝(いぶか)しい? でも、そういう読み方も許してくれる謎小説なのだ。

 続く「仮面」と「いかなる因果にて」は犯罪小説である。「出番が来たんちがう?」という台詞(せりふ)の悪辣(あくらつ)(かつ切実)な意味がだんだんわかってくる「仮面」の結末を痛ましいと感じるのは、善いこともすれば悪いこともする人間の無力さが悲しいからだ。「いかなる因果にて」は異色の逸品で、二〇〇八年に発生した元厚生省事務次官らが殺傷された事件から書き起こし、著者の思い出話を交錯させつつ、ノンフィクション風の筆致で、人生が押しつけてくる理不尽について静謐(せいひつ)に綴(つづ)ってゆく。

 「Delusion」は帰還した女性宇宙飛行士が獲得してしまった予知幻覚を扱ってSF風味、「月も隈(くま)なきは」は生活を変えたい熱に憑(つ)かれた定年サラリーマンのお話で、どちらもかすかなカタストロフの気配をはらみつつ、はっとするような明るいところに着地する。題材だけを見るならサスペンスものになるのだろうが、そうしたジャンル分けなど本書の前では意味がない。新しい年の初めに、これこそが小説を読む喜びだとただ噛(か)みしめるばかりである。

 ◇つじはら・のぼる=1945年生まれ。90年「村の名前」で芥川賞、2012年『韃靼(だったん)の馬』で司馬遼太郎賞。

 河出書房新社 1600円

読売新聞
2019年1月13日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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