『幸福の増税論』 井手英策著

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『幸福の増税論』 井手英策著

[レビュアー] 坂井豊貴(経済学者・慶応大教授)

支え合いの財政へ

 「税のきらいなあなたへ」との呼びかけから本書は始まる。税の必要性をもっと認めてもよいのではないかと語りかける。何も納税自体を愛せというわけではない。ただ、税はよき社会を築くには不可欠なものだ。財政を通じた、人間の命と尊厳の保障を著者は考えぬく。

 人間には、自己責任で対応できる領域と、そうではない領域がある。そのうち前者を、不用意に広げないようにする。そして後者を、皆で支え合うようにする。支え合いの仕組みとしての財政を築く。著者が提唱するのは財政による「ベーシック・サービス」の提供だ。これは、人間であれば誰もが必要とするサービスを、財政を通じて、誰しもに保障することだ。具体的には、保育、教育、医療などがこれに含まれる。

 財政を、奪い合いではなく、支え合いにするためには、人間を所得で区別してはならない。これは高所得者を、所得制限によってサービスから排除しないことを含む。実際、所得で負担側と受益側を分けることには負の面が大きい。サービスの要不要が争いの対象になったり、利用に負のイメージが発生したりする。

 また著者は、金持ちから税をもっと取れといった言い方には、一定の共感を示しつつも、否定的だ。そもそも高所得者は数が限られており、大きな税源ではない。だから推奨するのは消費税の増税を通じた再分配である。一般に、再分配を支持する人は、累進性のない消費税を嫌いがちだ。しかし著者は、巷間(ちまた)にある消費税への批判は、再考の余地が大きいという。歴史的には消費税は、貴族にも課税する「階層による差別を許さない」税として、よさを認められてきた面がある。税源の規模も大きい。

 財政哲学の転換をうったえる本書の論には、感情的な反発が起きもしよう。だから著者は起こりうる多くの批判に、あらかじめ本文で答えている。いまもっとも丁寧に読まれねばならない一冊である。

 ◇いで・えいさく=1972年生まれ。慶応大教授。専門は財政社会学。著書に『18歳からの格差論』など。

 岩波新書 840円

読売新聞
2019年1月13日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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