渾身の告発であると同時に、これまでの経済研究の集大成

レビュー

3
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なぜ日本だけが成長できないのか

『なぜ日本だけが成長できないのか』

著者
森永 卓郎 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784040822617
発売日
2018/12/08
価格
924円(税込)

書籍情報:openBD

渾身の告発であると同時に、これまでの経済研究の集大成――【書評】『なぜ日本だけが成長できないのか』森永卓郎

[レビュアー] 森永卓郎(経済アナリスト)

 日本のGDP(国内総生産)が世界に占める割合は、この21年間で3分の1に激減した。近年の経済の低迷は、人口減や高齢化が原因だと広く信じられているが、それは間違いだ。この21年間に、人口も就業者数も増えているからだ。

 それでは、転落の本当の原因は何なのか。それは、「構造改革」だというのが、本書で私がしている主張だ。我々は、(1)日本の財政は世界最大の借金を抱えており、消費税率引き上げ以外に財政の立て直しの手段はない、(2)大規模な金融緩和は高インフレをもたらし、国民生活を破壊する、(3)日本は米軍の軍事力の傘の下でないと国を守れない、という三つの神話を信じ込まされてきた。そして、そうした厳しい制約のなかで、日本を成長へと導く唯一の道が、「構造改革」だと聞かされてきた。しかし、三つの神話は、完全な虚構だ。安倍政権が行った金融緩和が劇的な効果を発揮したことから、金融緩和の神話が嘘だったことはすでに明確になっているが、本書では、残る二つの神話に関しても、虚構であることを事実とデータを用いて、きちんと論証している。

 それでは、「構造改革」とは何だったのか。その真の目的は、日本が戦後営々と築き上げてきた企業資産を二束三文でハゲタカに売り渡し、一億総中流だった日本社会を格差社会に変貌させるための策謀だった。

 私は、いまから20年ほど前に、そのことに気づいた。だから、さまざまな討論番組や論壇誌で小泉構造改革を徹底的に批判し、不良債権処理という名の日本企業のたたき売りを進めていた木村剛氏や彼の盟友だった竹中平蔵氏と戦い続けた。同時に、安倍政権がインフレターゲットを導入するよりはるかに早い時期から、不良債権処理より先に金融緩和を断行すべきだと主張してきたのだ。

 ただ、私は力不足だった。私がコメンテーターを務めていたテレビ朝日の報道番組「ニュースステーション」にまで木村剛氏が頻繁に出演するようになり、スタッフやキャスターの久米宏氏まで、虜にしてしまった。その結果、何が起きたのか。いまや、日本はすっかり外資が支配する国に変わり果ててしまった。保険会社は外資ばかりになり、家電メーカーも次々に外資に身売りすることになった。アマゾンやツイッター、iPhoneなど、生活の多くも、外資に依存するようになった。世界最大の債権国であり、外資の導入の必要性などまったくなかった日本が、世界一の技術を持っていた日本が、なぜこんなことになってしまったのか。

 実は、その背後には1985年のプラザ合意に始まり、バブルの発生・崩壊、不良債権処理、そしてデフレの脱却という約30年間にわたる壮大な日本経済の「解体処理計画」が存在したのだ。

 1980年代前半までの日本は、まさに破竹の勢いだった。その勢いを止める方法は、一見なさそうだった。ところが、日本型経済システムには、ひとつだけアキレス腱があった。それが不動産担保融資だ。不動産担保融資は、平時は最強の金融システムなのだが、地価が暴落すると機能しなくなる。そのアキレス腱を、ハゲタカとそれに協力する構造改革派の日本人が巧みに利用して、莫大な利益を手にしたのだ。その仕掛けをきちんと書いた本は、これまで存在しなかった。経済学者や評論家が、仕掛けに気付かなかったというより、あえて書かなかったのではないか。彼らも、「構造改革」で利益を得ている「勝ち組」の一人だからだ。

 本書を書こうと思った最大の動機は、これ以上日本経済が転落するのをみていられない気持ちと、それ以上に、富裕層が爆発的な勢いで増え続ける一方で、庶民の生活が日に日に悪化していく事態を許せない気持ちがあったからだ。

 本書は、これまでメディアの仕事を中心に、政治や経済の分析をし続けてきた私にとって、渾身の告発であると同時に、私がこれまでやってきた経済研究の集大成でもあるのだ。

 ◇角川新書

KADOKAWA 本の旅人
2018年1月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

KADOKAWA

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