<東北の本棚>検証なし 会津今も苦悩

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呪われた戊辰戦争

『呪われた戊辰戦争』

著者
星亮一 [著]
出版社
さくら舎
ISBN
9784865811780
発売日
2018/12/06
価格
1,650円(税込)

書籍情報:openBD

<東北の本棚>検証なし 会津今も苦悩

 「勝てば官軍」の言葉が示すように、結果が全て、理非を論じるより軍事優先、それが戊辰戦争であった。とりわけ京都守護職の重責を担い、押しつぶされたのが会津藩だ。犠牲者の鎮魂と歴史の検証は、いまだにきちんと行われていない。
 鳥羽伏見の戦いで幕府側を破ると、新政府軍は会津藩へ狙いを定めた。仙台藩主に「会津を討て」と迫る奥羽鎮撫(ちんぶ)総督府の下参謀・世良修蔵(長州藩士)を、著者は「悪魔の使者」と表現する。奥羽越列藩同盟が成立するが、奥羽の関門・白河城が落城、やがて降伏する。町家の土蔵は破られ、婦女子は暴行を受ける。「彼ら官軍ではない。山賊と同じだ」と切り捨てる。
 著者は郡山市に住む歴史作家で、ここまでは戊辰戦史に幾度も書いてきた内容だ。本書の読みどころは後半にある。
 「勝てば官軍」式の歴史観に初めて疑問符を呈した中央のジャーナリストは、徳富蘇峰だった。戊辰戦争から実に70年後、会津若松市公会堂で「維新史に於(お)ける会津」を演題に語った。「官軍賊軍などと言うのは間違っている。戊辰戦史で会津が逆賊という証拠はどこにもない。いずれの日にか、天下に表彰する(明らかにする)ことを確信する」と言うと、人々は涙を流して聞き入ったという。
 太平洋戦争で論争は一時中断。戦後、歴史作家が会津の戊辰史を描き、論争に再び火が付いた。「陸軍の長州閥こそ日本を軍国主義へ導いた。その結果が太平洋戦争だ」と指摘したのは早乙女貢だ。「幕末にあって共和制の国造りを思い描いた仙台藩士・玉虫左大夫などは、もっと評価されるべき人物」と著者は主張する。
 戊辰戦争から150年過ぎても、会津と長州の和解は成らない。歴代の会津若松市長は、その苦悩を抱えながら選挙を戦っている。過去の出来事ではなく、今も生きている問題なのだ。
 さくら舎03(5211)6533=1620円。

河北新報
2019年1月20日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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