給食の歴史 藤原辰史(ふじはら・たつし)著

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給食の歴史

『給食の歴史』

著者
藤原 辰史 [著]
出版社
岩波書店
ISBN
9784004317487
価格
950円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

給食の歴史 藤原辰史(ふじはら・たつし)著

[レビュアー] 橋本健二(早稲田大教授)

◆貧困救済から食文化教育まで

 こんなタイトルの本が、面白くないはずがない。日本の近現代史の全体と、日本人の多くの個人史とが交錯するテーマなのだから。ときおり脱脂粉乳の味を思い出しながら、一気に読み終えた。

 著者によると給食には、工場・病院・学校の給食という三形態がある。いずれも近代が生んだ、主要な社会制度である。この一点をとっても、給食が近代日本の重要な構成要素であることがわかる。

 そのうえで著者は、対象を学校給食に絞り、明治時代の萌芽(ほうが)期から現代まで、時には悲しく、時には心温まるエピソードを交えつつ論じていく。そこから給食と、学制の導入、災害、戦争、経済復興と成長、新自由主義の台頭など、近現代日本の主要な出来事との深い関わりが浮かび上がっていく。

 しかし著者は折に触れて、常に変わることなく、給食の原点であり続けてきた問題があることに注意を促す。それは、貧困家庭の子どもたちの救済である。

 通説では給食は明治中期、山形県の貧困児童を集めた小学校で始まったとされる。これが関東大震災を機に東京で定着し、また東北地方の大凶作を機に、地方へと広まっていく。貧困救済が目的なら、貧困家庭の子どもだけを対象にしてもよさそうだが、そうならなかったのは、そんな子どもたちに屈辱を与えないため、そして教育的な意義が認められたからだという。

 敗戦後は、米国主導でパン中心の給食が全国に広げられていく。ここに余剰小麦の押しつけや、食糧面からの日本支配の強化という目的があったことはよく知られているが、著者は日本側、とくに現場からの積極的な関与があったことにも注目している。

 今日の日本で、貧困家庭の子どもの救済が喫緊の課題であることは明らかだ。半面、子どもたちを地域の豊かな食文化の担い手として育てるという、新たな役割も期待される。最後の部分で紹介されるいくつもの先進的なとりくみは、この両者を同時に実現する、今後の給食のあり方を示唆していて心強い。

 (岩波新書・950円)

 1976年生まれ。京都大准教授。著書『トラクターの世界史』など。

◆もう1冊 

 鳫(がん)咲子著『給食費未納-子どもの貧困と食生活格差』(光文社新書)

中日新聞 東京新聞
2019年1月20日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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