北村薫、有栖川有栖、宮部みゆきをデビューに導いた編集者が、「特別な作家」と認めるミステリー作家とは

レビュー

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(P[み]4-5)座敷童子の幸せごはん

『(P[み]4-5)座敷童子の幸せごはん』

著者
緑川 聖司 [著]
出版社
ポプラ社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784591162149
発売日
2019/02/05
価格
734円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

平成最後の初夢または緑川聖司さんのこと

[レビュアー] 戸川安宣(編集者)

 好きな作家はたくさんいる。でも、新作が出たら必ず買って読む、という作家はそうそういるものじゃない。緑川聖司(みどりかわせいじ)さんは、ぼくにとってそういう特別な作家です。

 きっかけは二〇〇三年に小峰書店より刊行された『晴れた日は図書館へいこう』。現在はポプラ文庫ピュアフルに収められたこの作品の主人公は、本好きの少女しおりです。

 しおりは「本を読むのが一番好き」で、「たくさんの本が並んでいる図書館は、わたしにとっては新しい世界への無数の扉」だと言ってはばからない小学五年生の女の子。

「図書館は新しい世界への無数の扉」とは、全国の図書館の入口に、プレートに刻んで掲げておくべき言葉だと思う。

 本好きというのは、単に読書好きというのではない。「本の中身はもちろん、本の重さも、紙のにおいも大好きだ」というしおりは、愛書家の心情をみごとに体現しています。

 その『晴れた日は図書館へいこう』同様、ほどよいミステリ味を加えたハートウォーミングな連作短編が、この通称、福まねき寺――福招寺(ふくしょうじ)シリーズです。

 ポプラ社の『asta*』二〇一五年六、七月号に掲載された序ならびに第一話「佐平さんの恋」に始まるこのシリーズは、書き下ろし三編を加えて二〇一五年に『福まねき寺にいらっしゃい 副住職見習いの謎解き縁起帖』としてポプラ文庫ピュアフルから上梓されました。続いて二〇一八年には第二巻『座敷童子の願いごと 福まねき寺で謎解きを』が刊行されています。

 主人公の野上修平(のがみしゅうへい)は大学の二年生。映画研究会で気になる女の子と出会いますが、学部が違うので、クラブ活動以外では会う機会がない。そこで同じ授業を選択して、週に一度は顔を合わせることに成功するのですが……。たまたまその授業の休講を知らせる掲示板の前で出会った二人が、それならお茶でも飲みに行こうか、という嬉しい展開になった矢先、突然父親から携帯に電話が掛かってきます。兄の光平(こうへい)がいなくなったから、すぐに帰って来い、と。

 実家は、最近パワースポットとして注目されだした滝があるK市の小さなお寺。K市というのは、紅林(くればやし)商店街があるんだから紅林市じゃないか、と思うんですが、さて?

 町の中を背良(せら)川が流れ、曳間(ひきま)橋という橋が架かっています。その橋下を根城としていた白猫を、修平の妹、美月(みつき)が拾ってきて、寺の境内で飼うようになったのがシロウさん。

 その第一話から、宗派は違うが同じ市内にある剛徳寺(ごうとくじ)の副住職、鹿島清隆(かしまきよたか)が登場します。眉目秀麗にして頭脳明晰、しかもK市中にネットワークを張り巡らして、市内のことならなんでも知っているように思えるふしぎな人です。

 ところで、シリーズものを読む愉しみは、主人公を中心にした登場人物の絡み合いと、その進展ぶりにあります。修平の、恋の行方も気になるところ。第三巻となる本書の終盤に、修平が紅林商店街を歩くシーンがあります。その一軒一軒で、修平のみならず読者のぼくたちにも馴染みのある人たちが商いを営んでいる。ああ、あの人だ、この人だ……と、まるで地元の商店街を歩いているような気分にさせられることに、驚かれるのではないですか? これぞ正しくシリーズものの醍醐味でなくてなんでしょう。

 本シリーズ最大の謎は、失踪した修平のお兄さん。どこでどうしているのか、本書でその答えが明かされるわけですが、それは同時に、修平の行く末を決めることにもなるのです。さあ修平はどうなるのか、わくわくしますね。

 ところで、ミステリとして本シリーズを振り返ってみましょう。福招寺と紅林商店街を舞台にした様々な事件が、副住職見習い、修平の許に持ち込まれるのですが、修平の推理はたいてい見当違いで、いつも清隆に真相を言い当てられ、惨めなワトスン役に甘んじてしまうのです。でも、そんな修平の真摯な対応ぶりに共感する人たちもいて――そう、彼は少しずつ成長を遂げていくのです。

 この「福まねき寺」シリーズは、犯罪の起こらない、いわゆる日常の謎をテーマにしていますが、シリーズ中、最も印象深い謎と解答は、第一巻の第二話「おばあちゃんのパズル」ではないでしょうか。そして、個人的に気に入っているエピソードは、第二巻の第四話「五十円玉二十枚の謎」です。推理作家の若竹七海(わかたけななみ)さんが学生時代、大学近くの書店のレジでアルバイトをしていた時に実際に体験した奇妙な出来事――毎週土曜、五十円玉を二十枚持ってレジにやってきた男が、千円札への両替を頼んでくるという、なんともふしぎな行為に対し、納得のいく説明を公募したところ、何通もの回答が寄せられたのです。法月綸太郎(のりづきりんたろう)さんたちの作品に、一般公募の優秀作を加えて『競作 五十円玉二十枚の謎』として刊行されましたが、応募者の中には後の倉知淳(くらちじゅん)さんもまじっていました。さらに北村薫(きたむらかおる)さんが『ニッポン硬貨の謎』という長編の題材にしたのですから、よほどこの謎は推理好きに訴えるものがあったのですね。そしてそこに、緑川さんの回答が加えられたのです。

 この魅力的なシリーズは本巻で完結、だそうですが、ぼくには緑川さんが本書の随所に、続刊への伏線を張り巡らしている、としか思えません。野上修平や紅林商店街の人たちとの再会が、ぼくの平成最後の初夢となりました。

ポプラ社
2019年2月5日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

ポプラ社

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