もっと徹底的に、もっと真剣勝負を――『終末少女AXIA girls』著者新刊エッセイ 古野まほろ

エッセイ

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終末少女

『終末少女』

著者
古野まほろ [著]
出版社
光文社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784334912628
発売日
2019/01/23
価格
2,640円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

もっと徹底的に、もっと真剣勝負を

[レビュアー] 古野まほろ(作家)

 模倣から、私は始めます。

 元々の職業が『警察官僚』なるものだったことによる――のかも知れません。作品を書き綴(つづ)ってゆくとき、全く新しいものを全く独自の考えで創ってゆく、というのは苦手です。先例・前例を調べ上げ、そこから自分の編み上げたい要素を拾ってゆく、というのが私の創作スタイルです。私に天才のかがやきとか、天賦(てんぷ)のきらめきといったものは皆無です。

 今般のノンシリーズ新作『終末少女』の場合、その先例とはまず『アクロイド殺し』でした(他に『遊星からの物体X』『ランゴリアーズ』があります)。着想を得ながら幾度も読み返しますと、なるほど名著です。現代風にいうなら、超絶技巧……『そして誰も』にしろ『オリエント急行』にしろ『ABC』にしろ、クリスティの天賦の才には脱帽します。

 ところが、私にはそのようなもの、ありません。私にできるのは、『アクロイド』なら『アクロイド』で、その肝(キモ)を何度も何度も繰り返して味わうことによって、その奇想とその制約を型(カタ)としたとき、『自分にはそのフィールドでどんな飛び方ができるか?』を考えること、それだけです。先人の偉大な型をベースに、型割れにならないギリギリのところまで型破りをやってみる――私の営業は、そんな営業です。

 今般の『終末少女』では、もっと偏執的にやってみる、人間としてできるところまで執拗(しつよう)にやってみる――というのが『型』を前提とした『型破り』の方針でした。本格ミステリは読者と作者が戦う文学ですが、どうせ『仕掛ける』ならもっと意図的にもっと徹底的に、お互いの頭がくらくらになるまで戦いましょう――というのが本作のコンセプトです。といって、初読にまさか3時間を要するものではありません。盛りつけも色合いも、青春小説らしくあっさりさせています。

 ただ、その気になっていただければ、生涯を通じ何度でも楽しんでいただける。そんなからくりを施した、我が師の『月光ゲーム』30周年に捧げる本格ミステリ、御賞味ください。

光文社 小説宝石
2019年2月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

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