蝦夷地で外国人夫を支えた強き女性『曙に咲く』蜂谷涼

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曙に咲く

『曙に咲く』

著者
蜂谷 涼 [著]
出版社
柏艪舎
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784434253164
発売日
2018/11/16
価格
1,980円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

蝦夷地で外国人夫を支えた強き女性

[レビュアー] 東えりか(書評家・HONZ副代表)

 かつて「蝦夷地(えぞち)」と呼ばれていた土地、それが1869年8月15日に太政官(だじようかん)布告によって「北海道」と命名された。2018年はそれから150年目という節目の年だった。その北海道に日本競馬の父であり、北海道における酪農の礎(いしずえ)を築いたアメリカ人のエドウィン・ダンが来日したのは1873年のことだ。いわゆるお雇い外国人である。彼の功績は広く認められ、現在では札幌にその名を冠した公園と記念館がある。

 本書はダンと妻の鶴との夫婦の物語である。津軽の商家に生まれた鶴は双子の兄の亀吉とともに何不自由なく暮らしていた。だがご一新で世の中が変わり、鶴は函館に近い七重村郊外の峠下ホテルで働くこととなる。

 このホテルは外国人技術者や政府の要人を泊めるために開拓使が設けた施設である。父の友人の紹介で勤め始めた鶴は、ホテルに宿泊していた開拓使御雇農業方のダンと親しくなりプロポーズを受けた。

 父は大反対し籍を抜くことを許さない。そのため正式な妻とならないまま、娘のヘレンを産む。北海道では何不自由なく暮らしていたが、開拓使が閉鎖され東京に移ると、鶴は洋妾(ようしよう)、ヘレンはあいの子と蔑まれる。

 一時帰国するダンにヘレンを預け、東京で帰りを待つ鶴に鹿鳴館開館のための重要な仕事が舞い込む。それは好奇心旺盛な鶴がダンから教わった様々な西洋の文化だった。

 日本の妻を娶(めと)り多くの成果を残し、日本に骨を埋めたお雇い外国人は多い。妻たちは内助の功だけでなく、外国との懸け橋になっていた。激動の時代を生き抜いた一人の女性の生きざまに胸を打たれる。

光文社 小説宝石
2019年2月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

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