『最後の読書』 津野海太郎著

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最後の読書

『最後の読書』

著者
津野海太郎 [著]
出版社
新潮社
ISBN
9784103185338
発売日
2018/11/30
価格
2,052円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『最後の読書』 津野海太郎著

[レビュアー] 宮下志朗(仏文学者・放送大特任教授)

老いたる本読みの日々

 八十路(やそじ)を迎えた津野さん、トレードマークの「歩き読み」「早読み」も困難になったという。本人は、視力の衰えに引っかけて「落ち目の読書人」を自称しているけれど、年齢とともに視力、記憶力、持続力が弱るのはごく自然なこと。古希を過ぎた評者だって大差ないのです。そうした老いたる読書人としてのおのれの姿を、すんなりとはいかないものの、とにかく受け入れて、徒然(つれづれ)に本を読む日々を綴(つづ)った名エッセイ。

 「話す人」にして「書く人」だった鶴見俊輔が晩年、この二つの能力を喪失しても、「書けなくても習う手応え」という幸田文の言葉を『もうろく帖』に書き留めて、ひたすら読み続けたことに感嘆。そういえばと、串田孫一の読むことを随想した堀江敏幸の文章へと移行して、「インテリはみんなつまらん つまらんが つまらんなりに本を読みつぐ」と書いた鶴見の姿を想像しながら筆を擱(お)く。柔軟な思考力と展開力は健在だ。

 映画は必ず映画館で観(み)て、帰りに一杯やって帰宅する。われらが小説家・山田稔さんの話を受け、次の章は映画の話に。往年の人気俳優ダニー・ケイを若い人は知らないみたいと、「私の時代が後ろにずれてゆく」感覚を味わう。それは著者の代表作『ジェローム・ロビンスが死んだ』で描いた、ケイと同じく青少年期の自身のヒーローだった振付家・演出家ロビンスについても同様だったと続き、彼が「赤狩り(マッカーシズム)」の際に仲間を密告したことから、「ビッグコミックオリジナル」連載中の山本おさむ『赤狩り』へ。さらに「密告」から、吉野源三郎原作の『漫画 君たちはどう生きるか』における、コペル君の「ぼくは約束を守れずに、みんなを見捨てた」という独白が招喚される。

 衰えたとはいえ元気に、懸命に読書する老人の、うらやましいような日録。同時代に本と付き合い始めた親愛感に発する、「本を読む天皇夫妻と私」も必読です。

 ◇つの・かいたろう=1938年、福岡生まれ。評論家。著書に『花森安治伝』『読書と日本人』など。

 新潮社 1900円

読売新聞
2019年1月20日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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