<東北の本棚>死との向き合い方示唆

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<東北の本棚>死との向き合い方示唆

[レビュアー] 河北新報

 全ての生物と同様に、人間は死を避けることができない。死への不安や恐怖、死別の悲しみや後悔を抱えている人は多いはずだ。著書は「臨床宗教師」として多くの死に立ち会ってきた。本書は、その経験を基に、自分や身近な人の死と向き合うためのヒントを紹介する。
 臨床宗教師とは、医療機関や福祉施設、大災害の被災地などで、終末期の人々の心のケアを行う宗教者のことだ。特定の宗教に偏らず、布教を目的としないのが特徴だという。
 本書はまず、自分の死について考える。死と向き合うことは自分と向き合うことで、自分を見つめるもう一人の自己を持つべきだと説く。死の恐怖をなくすためには、死後の世界の有無を含め、自分に都合の良い死後の状態を設定し、信じることが重要だとの主張は興味深い。
 死について考察した上で、大切な人の死に直面したときの対処法を示していく。同じ境遇の人と話し悲しみを共有すること、遠慮せずに周りの人や専門家に助けを求めること、宗教を利用すること-。具体的な方法を挙げつつ、最終的に何を目指すべきかに踏み込む。
 悲しみは一生消えることがない。現実を受け入れ、日常生活を取り戻すことが一つのゴールになると指摘する。心の中に存在する亡くなった人と一緒に生きることをモチベーションにすべきだとも説く。タイトルには、人を救うのは医療、社会制度や宗教、哲学だが、人は癒やすこと、つまり寄り添うことができるという意味を込めた。本書は死について述べた本だが、人生を前向きに考えるきっかけにもなるだろう。
 著者は1972年金沢市の寺の三男に生まれ、9歳で得度。東北大大学院博士課程修了。新潟県の病院の仏教系緩和ケア病棟常勤僧侶などを経て、東北大大学院文学研究科准教授。東日本大震災をきっかけに、同大で養成が始まった臨床宗教師の研修プログラムを担当する。
 河出書房新社03(3404)1201=1188円。

河北新報
2019年1月27日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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