「プロレス」という文化 岡村正史著

レビュー

3
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「プロレス」という文化

『「プロレス」という文化』

著者
岡村正史 [著]
出版社
ミネルヴァ書房
ISBN
9784623084395
発売日
2018/12/13
価格
3,780円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

「プロレス」という文化 岡村正史著

[レビュアー] 粂川麻里生(慶応大教授)

◆「真剣勝負」の位置づけ論じる

 すでに数冊のプロレス関連の著書があり、力道山研究で大阪大学から博士号も受けている著者(一九五四年生まれ)が、「プロレス文化」を力道山時代から現代まで概論的に語ったものである。プロレスを語る文化人はそれなりに増えたが、「プロレス」というカルチャーの全体をアカデミックな観点から論じた書物は少ない。その意味で価値ある著作と言えるだろう。

 ただ、一プロレスファンの立場からのかなり随筆的・評論的な記述も多く、言葉遣いもそれに対応して「マジで」などの通俗的な表現も散見される。博士論文級にアカデミックなプロレス論を期待して読み始めた私のような読者は、やや当惑させられるかもしれない。とはいえ、プロレスの実像と虚像はつねに表裏一体ゆえ、それに触れる人と場合によって全(すべ)ての意味が変わってくる。個人的な「思い」を織り交ぜるのも、ひとつのアプローチだろうか。

 哲学者ロラン・バルトはプロレス好きだったという話から始める著者は、日本の「プロレス」はバルトが好んだ「純然たるショー」ではないことに話題を移していく。

 そして、力道山が一九五四年の木村政彦戦で「金的蹴りに対する突然の激昂(げっこう)」から、相手を血みどろのKOに下した一戦以来、日本の観客には「プロレスはショーではあるだろうが、ひょっとするとどこかに真剣勝負の要素が潜んでいるのかもしれない」という見方が定着したことが語られる。

 この「ショーの中の真剣勝負」をどこに位置付け、どう表現するかという難問に、力道山以降の各団体(UWFや女子プロも含む)がどう取り組んできたか、またファンがそれをどう受け止めてきたかが、本書を貫く縦糸と言えよう。「神国日本」という物語を失った日本の大衆が、力道山の体を張った虚構を信じたことの社会的意味がさほど掘り下げられないことと、大きな影響力を持ったアントニオ猪木のプロレスの分析があまりないのが少し残念だが、ひとつの出発点としての意味は大きい。

 (ミネルヴァ書房・3780円)

 1954年、三重県生まれ。プロレス文化研究会代表。著書『力道山と日本人』など。

◆もう1冊

 現代風俗研究会編『現代風俗 プロレス文化』(新宿書房)

中日新聞 東京新聞
2019年1月27日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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