「涙」の意味を調べると…「君にもっとも似合わないアクセサリー」!? 読めばとにかくキュンキュンできる、まったく新しい“辞典”

対談・鼎談

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「涙」の意味を調べると…「君にもっとも似合わないアクセサリー」!? 読めばとにかくキュンキュンできる、まったく新しい“辞典”

[文] 遊泳舎

2018年12月に二冊同時刊行された『悪魔の辞典』『ロマンスの辞典』(遊泳舎)。あらゆる言葉の意味をブラックに書き綴った『悪魔の辞典』の著者・中村徹さんと、すべての言葉をロマンチックに表現した『ロマンスの辞典』の著者・望月竜馬さんが、本書に込めた思いを語り合った。

黒地に銀の箔押しが印象的な『悪魔の辞典』と白地に金の箔押しが光る『ロマンスの辞典』
黒地に銀の箔押しが印象的な『悪魔の辞典』と白地に金の箔押しが光る『ロマンスの辞典』

非中立な自己投影型の「辞典」

中村 まず、『悪魔の辞典』がどういう本かっていうと、100年ほど前にアメリカで同名の本が出版されているんです。著者のアンブローズ・ビアスが、世の中の様々な言葉を自らの視点で再定義しているんですが、それが風刺たっぷりで面白くて。16歳のときに初めて手に取ったのですが、そのせいで捻くれた性格がさらに捻じ曲がってしまった(笑)。ひとことで言うなら、その現代版として作ったのが本書だね。

望月 思春期の頃に読んだ本って、性格形成にめちゃくちゃ影響しますよね。そういう意味では、僕は思春期の頃から純文学を読んでいたので、『ロマンスの辞典』に至ったのかもしれません。ロマンスの方は悪魔の派生版として、世の中のあらゆる言葉をロマンチックに表現するということをやっています。『悪魔の辞典』が物事の本質を鋭く突いたり、そのものの意味を考え直したりしているのに対し、『ロマンスの辞典』は表現に重きを置いています。小説でいうところの「文体」ですかね。

中村 どちらも語句の選定や意味・用法は、それぞれが主観で選んで作っているのが特徴だよね。それだけに自分たちの人生や性格が投影された内容になっている。

望月 本来、「辞典」って中立で、客観的でなければならない。それだけに堅くて小難しい印象を持ってしまいがちですけど、今回の二冊は真逆。どこまでも主観的だし、ユーモアに満ちている。でも、そんな本が世の中にあってもいいんじゃないかと思いますね。

意味を調べるのではなく、考える辞典

望月 普通、辞典というと語句の意味を調べるために使うものですが、『悪魔の辞典』も『ロマンスの辞典』も使い方はまったく異なりますね。

中村 「意味を調べる」のが本来の辞典の役割だとすると、この二冊の役割は「意味を考える」ことだと言っていいのかもしれないね。たとえば『悪魔の辞典』の中で、「スマートフォン」を「所有者というストラップの付いた高性能な携帯電話。」と説明している。実際、スマホの機能を使いこなせていない人は多いですし、もっと深読みすれば「スマホを使っているつもりだけど、実は人間がスマホに使われている部分ってあるかも」と考えさせられる部分もあります。

『悪魔の辞典』より「スマートフォン」。イラストはYunosukeさんが担当
『悪魔の辞典』より「スマートフォン」。イラストはYunosukeさんが担当

中村 悪魔というイメージから、ブラックな方向にばかり目が行きがちだけど、実はポジティブな見方もできて、たとえば「吹き替え」は「活字離れが進む我が国の洋画愛好者に読み聞かせをする音声」。日本人の活字離れを皮肉っている面もあるけど、それだけ声優のレベルが高くて魅力的とも捉えられる。

望月 たしかに吹き替えの声の方が印象の強いハリウッドスターっていますもんね。「24 -TWENTY FOUR」のジャック・バウアーとか。ドラマを見てなくても小山力也さんの声が頭に浮かんでくる(笑)。対して『ロマンスの辞典』は、たとえば「裾」を「相手を引き止めるために作られたシャツの余白部分。指先でそっと摘まむように引いて使う」だとか、「涙」を「君にもっとも似合わないアクセサリー」だとか、とにかくキザでお洒落な表現を意識しました。当然、普段はなかなか口にできないような表現が多いので、日常をふっと忘れたいときに読んでもらえるといいかもしれません。

中村 少し視点を変えるだけで、日常にもロマンスが潜んでいると気づかされる内容だよね。

『ロマンスの辞典』より「裾」。イラストはJuliet Smythさんが担当
『ロマンスの辞典』より「裾」。イラストはJuliet Smythさんが担当

望月 「ロマンス」って凄く曖昧ですよね。夢や冒険をイメージさせる男の「浪漫」や、恋愛をイメージさせる「ロマンチック」っていう言葉もあって。ただ、この本はその両方をひっくるめて「ロマンス」としてつめこんでいます。辞典だから、もちろん最初から読む必要もないし、好きなところでやめてもいい。イラストもたくさん入っていて、パラパラめくるだけでも楽しいと思うので、普段あまり本を読まない人にも手に取ってもらえたら嬉しいです。

対照的な二冊ならではの、読み比べる楽しさ

中村 この二冊はとにかく正反対だから、それぞれ微妙にターゲットも、楽しみ方も違うよね。『悪魔』は男性的だし、普段思っていても口にできないことを書いているから、一人でこっそり読みながらニヤニヤする感じかな。

望月 『ロマンス』はやはり女性の読者が多いようですが、読んでいてくすぐったくなる表現が散りばめられているので、「お酒を飲みながら読みたい」と、よく言われます。実は両方にいくつか同じ項目が入っているので、読み比べて表現の差を楽しむのもアリですよね。

中村 あいうえお順で、どちらも「愛」から始まっているのが、二冊のはっきりとした違いを物語っているよね。

『ロマンスの辞典』より「愛」
『ロマンスの辞典』より「愛」

『悪魔の辞典』より「愛」
『悪魔の辞典』より「愛」

中村 ほかにも、「授業」っていう項目なんか、分かりやすく対照的。『悪魔』が「学校の教室で流れる五十分間の子守唄」と書いているのに対し、『ロマンス』は「君の後ろ姿を見つめるために費やされる五十分間」なので。

望月 でも、これってどっちも共感できるんですよね。同じ教室にいるクラスメイトの中でも、「早く終わらないかなー」と睡魔に耐えている人もいれば、前の席にいる好きな人をチラチラ眺めている人もいる。同じ人でも、恋をしてるかしてないかで見方が変わることもあると思います。

中村 あとは、中身だけじゃなくて見た目も対照的だよね。並べて置くとより映えるように作っているので、書店でも選ぶ楽しさがある。

望月 そうですね。装丁にもこだわっているので、プレゼントにもおすすめです。どちらが好みかは本当に人それぞれだと思うので、まずは実際に手にとってみていただきたいですね。

遊泳舎
2019年2月3日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

遊泳舎

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