仏教抹殺 なぜ明治維新は寺院を破壊したのか 鵜飼秀徳(うかいひでのり)著

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仏教抹殺 なぜ明治維新は寺院を破壊したのか

『仏教抹殺 なぜ明治維新は寺院を破壊したのか』

著者
鵜飼 秀徳 [著]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784166611980
発売日
2018/12/20
価格
950円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

仏教抹殺 なぜ明治維新は寺院を破壊したのか 鵜飼秀徳(うかいひでのり)著

[レビュアー] 高瀬千図(作家)

◆そして国民は易々と従った

 昨年は明治維新から百五十年ということで、各地で記念行事が行われた。しかし、明治維新とは何であったのか、明治新政府が発布した神仏分離令、つづいて出された神仏判然令とは具体的にはいかなるものであったのか。

 浄土宗の僧侶でもある著者は廃仏毀釈(はいぶつきしゃく)の行われた現場に足を運び、その痕跡を探し、実地検証しつつ、かくも激しい破壊が行われた理由と背景を探り出そうとしている。

 周知のとおり、明治政府は千二百年にわたるこの国の神仏混淆(こんこう)とその習俗を排斥しようとした。古代より引き継がれてきた仏教文化さえも旧態依然とした徳川幕府による宗教体制として嫌悪した。その理由のひとつに、天下は取ったものの明治新政府にはいかなる展望もなかったこと、それゆえにこの国と民を一括(くく)りにするだけの強力な国体論を持つことが何より急がれたという事情がある。

 徳川幕府を否定するための思想的基盤として、水戸学はじめ神道による国体論が脚光を浴びることになった。王政復古、祭政一致を求める天皇制権力構造の下、国家神道を確立させることこそ、明治政府が目指した近代国家像であった。以来、国民には徹底して明治維新を肯定し、美化する教育がなされた。これは太平洋戦争終結まで続いた。

 しかし、疑問は残る。仏教的要素の排斥を命じた明治新政府に、なぜこの国の大衆は易々(やすやす)と従ったのか。比叡山延暦寺はじめ興福寺すら例外ではなく、ついに天皇家の菩提寺(ぼだいじ)にまで破壊の手は伸びた。

 明治元(一八六八)年、神祇(じんぎ)事務局から各神社に出された通達には、「僧形の別当、社僧などは復飾(還俗(げんぞく))の上、僧位僧官を返上せよ」と書かれている。僧侶までがこの命令に抵抗しなかった。

 廃仏毀釈により破壊された国宝的文化財の数は、先日他界された梅原猛氏によれば「現在の国宝の約三倍」にのぼるという。しかし、一般の人々がここまでの暴虐を働いたことには、それだけの理由がなくてはならない。本書は我々の信仰のあり方までも問う一冊となっている。

 (文春新書・950円)
 1974年生まれ。ジャーナリスト・僧侶。著書『寺院消滅』『無葬社会』など。

◆もう1冊 

 安丸良夫著『神々の明治維新』(岩波新書)。神仏分離政策の意味を問う。

中日新聞 東京新聞
2019年2月3日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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